第4章2 文化祭2&後夜祭ファイアーダンス
そんなこんなで文化祭当日、本番がやってきた。
天気は快晴。春も後半、暖かい過ごしやすい陽気だ。
きっとお客さんも多いだろう。
幸いまだ梅雨入りする前で、ギリギリかもしれない。
青空に鳩が飛んでいくのが教室の窓から見える。
これもそれもハルの強運のおかげかもしれない。きっと彼女は今日も大吉だ。
「いらっしゃいませー」
「「いらっしゃいませー」」
俺たちは接客の発声練習をしていた。
そして、問題は俺とハルであった。
「なんで俺たちはコレなんだ?」
「あはは、私ちょっと恥ずかしいかも」
俺たちは神社担当なので、俺は袴だけど白い上着に青い袴。ハルは白に赤というテンプレ色。
色違いペアルックみたいな格好だった。
いわゆる巫女服というやつである。
「仲いいから、いいだろ」
「そういう問題では」
「いーのいーの」
みんなにはやし立てられ、ハルもまんざらではなさそうだ。
なら、いいかと俺は考えを改める。
ハルが全力で嫌がってるなら、ナシ一択だが、うれしそうなら黙っている他はなかった。
クラスメートたちは千鳥格子ガラなどの袴というかモンペみたいなのを着て、大正メイド喫茶をしていた。
西洋風のメイド喫茶姿の女の子たちも一度は見てみたかったので残念だが、これはこれで独特の風情があって悪くはない。
あと眼鏡の子。意外と似合うって評判だった。
「お、マナハルコンビ、今日はカップルか?」
「ちゃうわい!」
「でもそれ色違いのペアルックだろ?」
「まあ、そうだけど」
「仲いいなぁ、ずるいぞウリウリ」
カイがからかってくる。
まあ、いつもこんなやつなので、これが平常運転だしな。
「占い? おみくじやります!」
神社の壁に貼ってあるデカいQRコードを読み込ませる。
みんな各自のスマホで参加できるように作ってあるのだった。
こういうのがウェブ公開の強みでもある。
「あああ、大吉!」
「おめでとうございます」
「おめでとう」
「大吉のお客様にはクッキー二枚、サービスです」
「ああ、ありがとうございます」
うんうん、おみくじも人気が上々で、そこそこ利用してもらえている。
この当たって大吉ならクッキーサービスと書いてあるのも効果があるようだった。
そんなところに東校に進学した佐藤アヤカがやってきた。
俺はちょっとびっくりしたのだ。
好きだった黒髪ロングをばっさり、ショートヘアーにイメチェンしていたからだ。
どのような心境変化だったのか、それとも俺にフラれてショックだったからか、まさか。
さすがに東高のブレザーにスカート姿だけど、どこか垢ぬけていて、今頃の高校生らしい。
「こんにちは、工藤マナカ君」
「アヤカじゃん、おひさ」
「なにそれ、幼馴染ラブコメじゃん!」
「あはは、まあな」
俺とハルの格好を見てからかってくる。
「もう見せつけてくれるわね」
「そういうわけじゃないんだが、着せられて」
「そう、自分でやってるわけじゃないのね」
「まあね」
「ふーん」
なんだ、そのアヤカのジトーとした目つきは。
これは俺、信頼されてないな。ぐぬぬ。
くそー。まあ俺は振った相手だもんな。
「じゃあね、ばいばい、工藤君」
「おお、アヤカもな」
手を振って別れる。
アヤカが向こうを向いた後、振り返って笑顔を向けてくるが、それも一瞬だった。
なんなんだろうアヤカ。
おま、ひょっとしてまだ俺のこと、思ってて……。
まさかアヤカが来てくれるとはね。
男連れではないようだけど、彼氏とかいるのかな。
いや、あの調子だと、いないかもしれない。
東高の特進科は男子が多いと聞いたが、逆ハーレムじゃないのか。
謎は謎を呼ぶな。
俺の横にハルが寄ってくる。ハルの肩が俺に寄りかかる。
「楽しいね、これが青春?」
とぼそっと囁いた。
ハルのいい匂いが漂ってきて、ドキドキしてくる。
「まだ仕事中だぞ」
「いいの、もうちょっとこうしてる」
ハルが甘えてくる。
なんだか、本当にカップルになったみたいだ。
「おい、マナカ、ハル、仕事仕事」
「も、もう! カイ君」
「お、いいところだったか、悪い悪い」
「もー」
ハルがカイに抗議するものの、暖簾に腕押しであった。
カイの自称ガールフレンドのミウが乱入してくる。
「工藤君、私の髪見入っちゃった?」
「バカいえ、え、あ、はい」
「ふふふ、彼女に言いつけちゃうぞ」
「おう、まった、たんま!」
「いひひひ」
「彼女ちゃうわい」
「いきなりの関西弁キタコレ」
ミウは家庭科部所属、ハルの心のオアシスの親友で、以前もクッキーを焼いてくれたいいやつだ。
こうやっておちょくってくるのも、存外に楽しい。
その変な乗りが好きだったりする。
「ハル、昼休憩しようぜ」
「分かった。神社は?」
「他のメンバーが案内してくれるって」
「助かるー」
ということでハルと二人でクラス店から一時抜ける。
格好は巫女服のまんまではあるが、ちょっと目立って視線を集めるものの、しょうがないということにしよう。
何事も諦めが肝心である。
学内の知り合いとかに手を振ったりして、しばらく学内を見る。
そして外の通路の所に、どこかのクラスが誘致したたこ焼き屋の屋台があった。
「こういうのもあるんだね」
「そっか、専門の業者さん呼んでるんだ」
「親御さんだったりして」
「かもね」
そっとたこ焼き屋の屋台に近づく。
いい匂いと焼ける音がしていて、とても美味しそうだ。
「兄ちゃんたち、どうたい、一つ」
「ああ、それじゃあ、二つください」
「はいよ。今ちょうどできたところだ」
焼けたばかりの熱々のものをパックと船に入れてもらい受け取る。
「まいどあり」
「ありがとうございました」
「美味しそう~」
「ああ、あっちの椅子で食べよう」
「うんっ」
ハルを連れて中庭のベンチに座る。
ここ、実はカップル御用達という学内ではリア充ポイントだったりする。
たまたま一か所、さきほどまでいちゃいちゃしている子たちがどいたので、空いていたのだ。
「よっこいしょ」
「ふふ、おじいさんみたい」
「なんとなくな」
二人してたこ焼きを一パックずつ手に持ち開ける。
「いただきます」
「ああ、いただきます」
「熱いよ」
「ああ、あちち」
「ほら、言わんこっちゃない」
「ふーふーしないと」
爪楊枝で一つ持ち上げては、ふーふーして口へと運ぶ。
甘辛いタレとマヨネーズ、その上におかかと青海苔。ふわっとした生地に出汁が効いている。
そこへ中のプリッとしたタコの歯ごたえがちょうどいい。
近年、タコの値段が上がっており、世の中にはタコなしたこ焼きなるものも売っているという。
ちょっと寂しい世の中だなとは思う。
そういう企業努力も涙なしには語れないのだろう。
タコを提供したいだろうに、それでもタコを切る判断をしたのだから。
「いっこあげる」
「おお、ありがとう」
「あーん」
「え、いいのか?」
「どうぞ。ほれ、あーん」
「あーん」
俺は口を開く。後半だったのが功を奏して、熱くはなかった。
ハルの持ったたこ焼きが俺の口に入ってくる。
第三者的に俯瞰してみると、なんだかとても恥ずかしくなってくる。
ラムネ半分ことかしていた身ではあるが、あーんには別の羞恥心があるな。
「うん、美味しいよ」
「やった」
別にハルの功績ではないが、よろこんでくれると、俺もなんだかうれしくなる。
とにかくこうしてお昼はたこ焼きあーんイベントが発生して、無事終了した。
さて時間は進み、夜、後夜祭である。
美しい夕日はさきほど沈んでいき、今はロマンチックな夜タイムとなった。
ゴミや木材などをグラウンドの真ん中に積み上げ、火をつける。
キャンプファイアー顔負けの炎を中心に、陽キャたちが輪になって踊っている。
「工藤君、踊らないの?」
「ミウか、バカいえ。陽キャと一緒に踊れるかよ」
「まったく、コンピューターバカなんだから」
「まあそういうなよ」
「あっち見てよ、ハルちゃん、寂しそう」
「あ、そりゃ悪い。ちょっと行ってくる」
俺は立ち上がり、向こう側でたたずむハルに接近する。
「ハル」
「マナちゃん」
「どうした?」
「なんでもないけど、もう終わりだなって」
「だな、あっという間だったわ」
俺たちのクラスには喫茶店スペースの奥に簡易的な神社を作り上げて、ちょっと盛り上がったのだ。
そこでおみくじのウェブサイトを起動して、大吉! 凶! とか言って騒いだものだ。
サイトはしばらく使えるようにしてあるので、毎日見てほしい。
火と周りで踊る男女を見ながら、ハルとそれを眺める。
まあ、こういう時間も嫌いではない。
「なあ、ハル。俺たちは陰キャだが。この際、気にせず踊ってみるか?」
「え、いいの? マナちゃんこういうの苦手でしょ」
「そりゃ苦手だけど、あっという間なんだろ。こういう青春も」
「そうだよね。分かった、一緒に踊ろ」
「んじゃ行くか」
「うんっ」
ハルの手を引いて、まるでエスコートするみたいに踊りの輪に加わる。
ちょうど空きスペースがあったので、素知らぬ顔ですすっと移動した。
マイムマイムというのだったか。
小学校の頃にもやった覚えがある。
あの時も、ハルと一緒のクラスで、俺とハルが見本に抜擢されて、指導を受けながら踊って見せるというハプニングイベントもあったっけ。
まだ二人とも子供で、男女で踊るといっても、大して抵抗がなかったのは、逆によかったのかもしれない。
今ではハルさんは立派な女の子になっており、手を取って正面で見るととても美少女だ。
出るところ出たり、腰が細かったりと、俺はどうしてもキョドキョドしてしまう。
ハルと目が合い、ニコッと笑ってくれる。
女の子と俺が踊っているというのも、変なものだ。
それがクラスいちの美少女のハルだというのだから、余計、なんというかありがたい気持ちになる。
「ハル、ありがとう」
「え、何急に」
「いつも、こうやって隣にいてくれて」
「えへへ、私こそ、ありがとう、マナちゃん」
ウィンクをして決めポーズをするハルに俺は目を惹かれていた。
ハルは夜の闇の中、グラウンドのライトと中央の炎の光で照らされて、それはもう綺麗だった。
亜麻色の髪が色々な濃さに染まり、光を反射する。
一曲終わって、それぞれが隣のペアと相手を入れ替えるのだけど、俺たちは他の人たちと違って輪から抜ける。
「やっぱり、こういうのって一瞬だな」
「なに、改まって」
「いやさ、さっきの輪の中だと、ハルがこう炎の赤に照らされてさ、綺麗だったなと」
「おだてても、何もあげないよ。それとも木に登る豚だっていう、遠回しないじわる?」
「それは考えてなかったな」
「だよねぇ、マナちゃん、そういういじわる言わないもんね」
「まあ、そういう評価だとありがたい限りで」
「ふふふ。大丈夫、なんでも分かってるから」
「そりゃ、ありがと」
「うん」
まだ中央で燃えている炎をじっと見つめる。
ここからでもハルの顔は炎でわずかに照らされていて、美少女は大変美しい。
そっとその横顔を盗み見て、ふと思い出す。
「そだ、写真、写真撮っておこうぜ」
「あ、うん。夕日の時は撮り逃しちゃったもんね」
「だろ、危なかった」
スマホを取り出し、カメラをセットして腕を伸ばす。
誰かに撮ってもらうというのも、それはそれで恥ずかしい。
セルフィーだがないよりはいいだろう。
「はいチーズ」
パシャ。
スマホの擬似シャッター音が鳴り、俺たちのメモリーがまた一枚埋まるのであった。
後夜祭も終わり、次のイベントは学校の中間テストが迫っていた。
俺たちは勉強三昧をして、テストに挑む。




