表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました  作者: 藤原遊人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/57

9

お茶会を終えた夕刻。

ルナ離宮の執務室は、静かな夕陽に照らされていた。


私はいつものように書類を捌きながら、向かいに座るカティアに目を向けた。


彼女はまっすぐな視線でこちらを見つめていた。

幼さの残る顔立ちに不釣り合いな、鋭い光を宿した瞳。


「……殿下」


「うん?」


カティアは僅かに唇を噛んでから、ゆっくりと口を開いた。


「なぜ……私をお引き取りになったのですか?」


その問いは、予想していなかったわけではない。

だが、その声音には迷いがなかった。


「他の姉君方のように、上位妃のご令嬢の中から選ばれる方が――殿下の今後の立場には、はるかに有利だったはずです」


「……」


私は少しだけ目を細めた。

ここまで冷静に己の立場を分析しているとは。


(やはり才覚は群を抜いている)


「君は、そこまで理解しているのか」


「……はい」


カティアは小さく頷いた。


「私のように後ろ盾を持たぬ妃では、王宮内での貴方の立場を不安定にしかねません。政治というものは、そういうものでしょう?」


まるで既に政略を熟知している貴族夫人のような物言いだ。

だが、その奥には幼いながらの覚悟と不安が混じっているのが見えた。


私は、静かに首を横に振った。


「――だからこそ、なのだよ」


「……え?」


「私の母は既に亡い。私は王子でありながら、背後に特定の貴族派閥を持たぬ身だ」


「……」


「外交を担う私の立場は――常に王家そのものの中立でなければならない。特定の貴族と結び付けば、私が動くたびに王家が揺らぐことになる」


カティアの瞳が、僅かに大きく開かれた。


「後ろ盾のある姉妹を娶れば、その家門は私を通じて王家を動かそうとするだろう。それは私にとって、そして王家にとっても毒だ」


私は淡く微笑む。


「だから私は、貴族の娘ではなく――王家の中でも孤立していた君を選んだ」


「……」


「君が誰にも支えられずとも、ここまで己の才を磨き続けてきたことも……私は知っている。埋もれさせるには惜しい」


カティアはわずかに視線を伏せ、手を膝の上で静かに握った。


「……私には何の力もありません。ただ、生き延びるために学んできただけです」


「その生き延びるための才が――すでに立派な力だ」


私は穏やかな声で言葉を重ねる。


「そして、これからは私が君の後ろ盾となる。安心して力を伸ばせばいい」


カティアの唇がわずかに震えた。

長い間、誰からも与えられなかった言葉を、今ようやく受け取ったように。


「……はい」


彼女はかすかに頷いた。

まだその声は小さく、表情の硬さも残る。けれど――


けれど心の中では、

ようやく芽を出し始めた若木が、ゆっくりと根を伸ばし始めるのを感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ