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十八歳の誕生日の翌朝――
柔らかな朝の光がカーテン越しに差し込み、私はゆっくりと目を覚ました。
腕の中には、昨夜も変わらず――いや、昨夜は特別に――甘やかな寝息を立てるカティアの姿がある。
(……本当に、綺麗だったな)
昨夜のカティアの姿を思い出し、思わず口元が緩む。
淡い黄色のドレスに身を包み、サファイアの髪飾りを揺らす彼女の微笑み――
何年も隣に在り続けたはずなのに、初めて見るほどに新鮮で美しかった。
(十八歳になって……ようやく、本当の意味で妻になってくれた)
私はそっとカティアの頬を撫でる。彼女はうっすらと目を開け、寝ぼけまなこで微笑んだ。
「……ユーリ……おはようございます……」
「ああ、おはよう。よく眠れたかな?」
「……ええ。とても、幸せな夜でしたわ……」
私は胸の奥が温かくなるのを感じながら、静かに彼女の額に口づけた。
◇ ◇ ◇
その数刻後――
執務室へ移動した私は、いつものように記録官の報告を受けていた。
彼は無表情のまま、淡々と書き付ける。
【第1460夜──妃殿下、王子殿下といつもと変わらず情熱的な契りを交わし、熱き夜を過ごされる】
(……「いつもと変わらず」、か)
私は思わず失笑しかける。
(本当は昨夜が、初めてだったのだが……)
記録官からすれば、これまでの四年間と何ら変わらぬ“日常”の延長線上に過ぎない。
私自身が積み重ねてきた既成事実――
(……ようやく、本当に迎えられた)
思い返すたびに、昨夜のぬくもりが胸の奥に蘇ってくる。
(これからは、もう誰に対しても偽らなくていい)
記録官は書き終えると静かに一礼し、部屋を後にした。
私はそっと天を仰ぐ。
新たな朝の光が、静かに差し込んでいた。




