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後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました  作者: 藤原遊人


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ルナ離宮の夜は静かだった。


カティアは自室に戻ると、深く息を吸い込んだ。


(――いよいよ、なのですね)


イレーネの手によって、慎重に用意された夜着に身を包む。

それは十四歳の成婚のときにも着た、少し大胆な意匠のものだった。

だが当時とは違い、今夜は本当の意味でその意味を持つ。


鏡の前に立つ自分の姿を、カティアは静かに見つめる。


(ユーリは、ずっと……こうして私を守ってくれた)


十四歳から続いてきた日々。

周囲には既成事実を積み重ねながらも、ユーリは一度もその一線を越えなかった。


(でも今夜は、違いますわ)


ドアの向こうに広がる未来を想い、そっと手を胸に当てる。


(――私も、貴方のすべてを受け止めたい)


カティアは小さく頷き、隣室へと続く扉の前に立った。


ユーリの私室とカティアの私室は、内扉で繋がっている。

これまでは閉ざされていたその扉に、カティアはゆっくりと手をかけた。


そっと、音もなく開く扉。


その先には、既に身支度を整え、待っていたユーリの姿があった。


「……カティア」


優しい声音が響く。

視線が重なり、自然と微笑みがこぼれた。


「こんばんは、ユーリ」


カティアは静かに歩み寄り、ユーリの目前で足を止めた。


ユーリの眼差しが、カティアを隅々まで優しく包み込むように見つめているのが分かった。

恥ずかしさに頬が熱くなるのを感じつつも、カティアはしっかりと目を逸らさずに応えた。


「……とても、綺麗だ」


ユーリの低く甘い声が、カティアの耳に囁かれる。


「ありがとう……ユーリ」


少しだけ震える声で、それでもしっかりと気持ちを込めて返す。


次の瞬間、ユーリの両腕がそっとカティアを抱きしめた。

その温もりが、これまで何度も感じてきた抱擁とは、どこか違って感じられた。


「大丈夫、カティア。……君が怖くならないように、ゆっくり進めよう」


その囁きに、胸の奥がじんと熱くなる。


「……ううん。もう、大丈夫ですわ。貴方になら……全てを、預けられます」


カティアの答えに、ユーリはそっと額にキスを落とす。


――これまで積み重ねてきた、長い時間。

その全てが、今、報われるような夜がゆっくりと始まろうとしていた。


こうして――


十八歳の誕生日の、特別な夜は静かに幕を開けたのだった。

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