表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました  作者: 藤原遊人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/57

5

ルナ離宮に迎えてから数日。

カティアの生活も徐々に落ち着きを見せ始めていた。


私は執務室の隣にある小教室にカティアを呼び寄せ、まずは現状の学力査定を行っていた。

今後の教育方針を定めるためには、何よりもまず彼女の現在地を把握する必要がある。


「では、次は歴代王家の系譜についてだ」


「はい。初代王となったイオス陛下は当時の五大部族連合を統一し――」


カティアは淡々と答えていく。

歴史の知識量は年齢にしては驚くほど豊富だった。王家の系譜だけでなく、隣国の歴史もある程度把握している。


「……次に、隣国カルディアの貿易主要港は?」


「南部のルセラ港と、東岸のザルド港が中心です」


即答だった。地理もまた、想像以上に広く把握している。


私は思わず手元の書面にメモを取る。


(ここまでの水準に達しているとは……独学にしては異常だな)


「よし、次は計算だ。割合計算、利率、関税計算……これは?」


「――答えは、こうです」


カティアはすらすらと正確に解答していく。

筆算も早い。数字の処理能力は極めて高いと言っていいだろう。


「……見事だ」


思わず素直に口に出していた。


ここまで優秀な子を、後宮の隅で放置していたなど――

まったく、あの後宮の仕組みは欠陥の塊だ。


「カティア、本当に良く出来ている。君は、相当な努力をしてきたのだね」


私が褒めると、カティアはわずかに目を伏せた。


「……いえ、ただ、興味があっただけでございます」


どこか曖昧に言葉を濁す。

私を警戒しているわけではなく、これは――素直に誉め言葉を受け取れないだけだろう。


(自己評価が低い)


それもまた、育った環境ゆえか。


「君は本当に聡明だよ。……さて、では次は宗教に関する設問だ」


私は問題集をめくった。

だが――ここで流れは一変する。


「この祝祭は誰を讃える日だ?」


「……え、と……」


カティアが答えに詰まった。


(ああ、やはり)


宗教知識はほぼ壊滅的だった。

正典の教義はもちろん、祭儀、神官序列、聖遺物の位置付けも曖昧。


「これまで宗教の教育は?」


「……ほとんど受けたことがありません。後宮では、身分の低い妃の子が神事に触れる機会は少なく……」


なるほど。

位階の低い妃の出であることが、ここでも影響していたわけだ。


「ふむ。では宗教については一から学び直そう。焦ることはない。教える者も教材も、全て用意してある」


「……はい」


先ほどよりも小さな声で、カティアは頷いた。


その瞳には、どこか申し訳なさと安堵が混じっていた。

私はにこやかに微笑んだまま続ける。


「全体としては驚くほどの水準だよ。むしろ私が教わる側になりそうなくらいだ」


「……そ、そんなことは……」


カティアは、褒められるたびに微妙な顔をする。

イレーネが隅で小さく吹き出し、ノルベルトはまた苦笑を浮かべていた。


「素直に褒められることに慣れましょうね、カティア様」


イレーネの言葉に、カティアは困ったように目を伏せた。


私は静かに頷いた。


(――だが、やはり君は有望だ)


この素質を、今度こそ正しく伸ばす。

それが私の新たな役割だと、改めて胸の内で誓った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ