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王宮内の執務室――
私は報告書を机に並べながら、静かに目を伏せた。
「……なるほど」
ノルベルトが頷く。
「はい、殿下。王都西部にございます、バルモント家の離れにて、ここ最近密会が複数回確認されております」
「メンバーは?」
「バルモント家当主の従兄、その娘婿、旧派閥の一部貴族――および、ダイヤモンド宮に仕える一部後宮官女とも繋がりがある模様です」
私は溜息をつく。
(……やはり後宮にまで手を伸ばしているのだな)
カティアが静かに口を開いた。
「彼らは今、何を目論んでいるのでしょう?」
「簡単な話ではないな」
私は苦く笑う。
「王太子殿下の後宮は派閥闘争で揺れている。そこへ“血統的に正統性を持つ私”を祭り上げ、再び王位継承の流れを混乱させたいのだろう」
ノルベルトが小さく唸る。
「とはいえ、陛下も王太子殿下も、既にこうした動きを把握しておられるはず。しかし――」
「直接摘発するには、証拠が薄すぎる……ということか」
「左様にございます」
私はゆっくりと椅子にもたれた。
(……父上はあくまで静かに幕を引きたがっているのだ)
バルモント家は古参貴族。力を持ちながらも、今はもはや衰退傾向にある。
完全に潰せば周囲にも波紋が広がる。だが、このまま放置もできぬ。
「証拠を――押さえる必要があるな」
私は決意を込めて言った。
「ノルベルト、監視を強化しろ。正規の王宮直属の監察官も秘密裏に動かして構わぬ。カティア――」
「はい」
彼女の瞳は、揺らぎなく私を見据えている。
「少しばかり、危うい役割を頼むかもしれない」
「私は、ユーリの妃ですもの。共に歩むと決めた日から、その覚悟はできております」
私は思わず微笑んだ。
(……本当に、強くなった)
「ありがとう」
◇ ◇ ◇
こうして――
密やかな調査はさらに深まり、バルモント家の動きは確実に包囲されつつあった。
嵐は、静かに迫りつつある。




