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後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました  作者: 藤原遊人


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客間に案内された私たちは、静かに席に着いた。


やがて扉が開き、リディア様が小さな籠を抱えて現れる。

その中には――まだ生まれて間もない、小さな命が眠っていた。


「この子が、私たちの娘ですわ」


そっと顔を覗き込んだカティアが、息を呑む。


「……まあ……」


可愛らしい寝息。小さく握られた拳。透き通るような柔肌。

それは、これまでカティアが接したどんな存在よりも、儚く、愛おしいものだったのだろう。


リディア様は微笑みながら、カティアに声をかけた。


「良ければ、抱いてみます?」


「……えっ?」


カティアは一瞬たじろぐも――すぐに小さく頷いた。


「……恐れ多いですが、失礼いたしますわ」


慎重に、リディア様の手から赤子を受け取るカティア。

小さな身体を腕に抱き上げた瞬間――その表情が、ふわりと柔らかくほどけた。


「……小さい……あたたかい……」


カティアはまるで宝物を扱うように、優しく赤子を揺らす。

赤子も心地良さそうに小さく口を動かし、眠り続けていた。


私は隣でその様子を見つめながら、静かに胸が熱くなるのを感じていた。


(……カティア)


その姿は、まさしく未来の母のようだった。


リディア様がそっと囁く。


「とてもお上手ですわ。カティア様、きっと素敵なお母様になられることでしょう」


「……いえ、まだ私には想像もつきませんわ。ただ……とても、幸せな気持ちになります」


カティアの声は、自然と震えていた。

だがそれは、怖れではなく――新たな感情への驚きゆえだった。


私はカティアの肩にそっと手を置く。


「大丈夫だよ、カティア。……ゆっくりでいい。君が母となる日は、まだまだ先の話だ」


「……ユーリ」


カティアは私を見上げ、小さく微笑んだ。

その微笑みは、ほんの僅かに照れたようで――けれど、確かに未来へと続く光を宿していた。


◇ ◇ ◇


やがて赤子は静かにリディア様の腕へ戻され、宴は続いていく。


その後も穏やかに時は流れ、アレクシス殿下夫妻、王太子夫妻、聖女サクラ殿下との和やかな歓談が続いた。


アルセリア王国の祝福に包まれた訪問は――こうして、優しく幕を閉じたのだった。

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