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後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました  作者: 藤原遊人


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季節はまた一巡し――


カティアは十六歳を迎えた。

あの日の不安を乗り越えてからも、彼女は着実に成長を続けている。今や外交の場に同行することも日常となり、その優美さと聡明さは、各国からも高く評価されつつあった。


「殿下、アルセリア王国より正式な招待状が到着いたしました」


ノルベルトが書簡を差し出す。


私は手に取ると、丁寧な筆跡を目で追った。

――アレクシス殿下とリディア妃殿下に、お子が生まれたとのことだ。お祝いを兼ねた親善訪問の招待状である。


「ついに、か……」


私は静かに呟いた。


あの二人が歩んだ時間に、こうして新たな命が加わったのだ。

親となった彼らに祝福を届けることは、かつて求婚を申し出た私としても、心からの喜びだった。


「カティア」


夕刻、執務を終えたカティアがルナ離宮の執務室に現れる。


「はい、ユーリ」


「アルセリアから招待状が届いた。アレクシス殿下夫妻に、お子が生まれたそうだ」


「まあ……!おめでとうございます」


ぱっと花が咲いたように、カティアの表情が輝く。

かつて親しくなったリディア様の顔を思い浮かべているのだろう。


「祝いのために、二人で訪問する。君にも随行を頼みたい」


「もちろんです。私もリディア様とサクラ様にお会いできるのが楽しみですわ」


カティアは柔らかく微笑んだ。


◇ ◇ ◇


そして数日後――


私たちは再びアルセリア王国へと向かった。


前回の訪問と違い、今回はより穏やかで、心の準備も整っている旅路だった。

とはいえ、カティアは以前と比べ、さらに堂々とした気品を纏っていた。


「……君も、随分と立派になったものだ」


馬車の中で、ふと漏れた私の言葉に、カティアは照れたように微笑む。


「すべて、ユーリが私を支えてくださったおかげですわ」


「それを言うなら、君の努力の賜物だ。私はただ、君に相応しい場を整えただけだよ」


「ふふっ……」


カティアは目を細め、私の手をそっと握った。

温かな掌の感触が、どこまでも愛おしい。


(……だが)


旅路の間、私はふと考える。


私は親という存在を知らない。カティアもまた、母を失い、後宮で孤独に育った。

そんな私たちにとって、アレクシス殿下夫妻の子の誕生は――どこか眩しくも、不思議な感情を抱かせる出来事だった。


(――親になるとは、どういうことなのだろうな)


◇ ◇ ◇


やがて、馬車はアルセリア王宮に到着した。


出迎えてくれたのは、アレクシス殿下、リディア様、そして聖女サクラ様。


「ようこそ、アルセリア王国へ」


「このたびは、お招きに与り光栄です。第六王子ユーリ殿下、ならびに正妃カティア殿下、参上いたしました」


私は礼を述べ、カティアも優美な一礼を捧げる。


「遠路はるばる、ありがとうございますわ」


リディア様が柔らかく微笑み、カティアの手を取る。


「相変わらずお美しい……本当に、立派になられましたわね」


「もったいないお言葉、ありがとうございます。リディア様のような素敵な妃を目標に、日々学ばせていただいております」


「まあ……嬉しいですわ」


二人は穏やかに微笑み交わす。

その横で、アレクシス殿下が私へと小さく囁いた。


「カティア殿下の聡明さと愛らしさは、既に諸国の噂となっているぞ。外交を担当するユーリ殿下には、これ以上ない最良の妃だな」


「ありがたく頂戴しておこう。……とはいえ、カティアに負担はかけぬつもりだ」


アレクシス殿下は、静かに目を細めた。


「……あの時の愚かさを、今は感謝していますよ」


「ふ……いい顔をしている」


穏やかな空気の中、私たちは宮殿奥の客間へと招かれていった。


──こうして、アルセリア再訪の旅は静かに幕を開けたのだった。

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