表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました  作者: 藤原遊人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/57

43

執務を終えた私は、ルナ離宮へ戻った。

カティアはすでに私室で待っており、私の顔を見ると微かに緊張を滲ませて立ち上がった。


「ユーリ……」


「待たせたね、カティア。話があるんだ」


私はそっとカティアの手を取り、ソファに並んで腰掛ける。

カティアの細い指先が、ほんのわずかに震えているのが伝わってきた。


(……やはり、不安だったのだな)


「例の縁談の件だけれど――」


私は静かに経緯を語りはじめた。

王太子との協議、第四王子ラウル兄上への打診、そして最終的に彼が引き受けたこと。これで私の離宮に新たな夫人が加わることはないことを、丁寧に。


一通り説明を終えたとき、カティアはそっと俯いたまま、ぽつりと呟いた。


「……本当に、良かったです」


「……カティア」


「正妃として、制度上は仕方ないことだと理解しておりました。けれど――」


ふるりと肩が揺れる。

カティアはゆっくり顔を上げ、潤んだ瞳で私を見つめた。


「けれど……もし他に方が来られたら、私は……私はまた、居場所を失ってしまうのではないかと……怖くて……」


その声は細く、けれど必死だった。


「後宮では、母のいない王女は、食事さえ満足に得られませんでした。居場所を作るために、ずっと必死でした。ユーリに拾っていただいてからも、ずっと――また捨てられるのではと、どこかで怯えていたのです……」


私はそっと彼女の肩を抱き寄せた。

細い体がわずかに震えながら、私の胸元へ寄り添ってくる。


「ごめん、カティア……怖い思いをさせたね」


私は彼女の髪に唇を落とし、囁くように続ける。


「だが、私は君を捨てたりしない。たとえ制度がどうあろうと――私の妃は、君だけだ」


「……ユーリ」


「君が泣くような思いは、二度とさせたくない。どんな王命でも、外交でも――私の意思は、揺らがない」


カティアは堪えきれず、小さく嗚咽を漏らした。


私は彼女が落ち着くまで、静かに背中を撫で続けた。


「ありがとう……ユーリ……私……幸せです……」


涙を流しながら微笑むその顔は、私にとってこの世で一番愛しいものだった。


(――君を守る。何があろうとも、必ず)


そう心に誓いながら、私はそっとカティアの額に口付けた。


◇ ◇ ◇


こうして、カティア十五歳の春――

新たな試練は静かに乗り越えられていったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ