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後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました  作者: 藤原遊人


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4

ルナ離宮に到着してから間もなく、私はカティアを伴って内部を案内していた。


この離宮は、私の外交執務のために整えられたものだが、後宮のような煩雑さはない。

静謐な回廊、柔らかな光を取り込む窓、過剰すぎないが上質な調度品――まさに私の好みに整えられた空間だ。


だが、カティアの歩き方はどこかぎこちない。

まるで侍女のように身を小さくし、歩幅すら抑えているのがわかる。


「カティア、君は客人でもなければ侍女でもない。堂々と歩いていいのだよ?」


「……は、はい」


答えはするものの、そのまま控え目な姿勢を崩さない。

思わず苦笑が漏れた。


「まったく。では、もう少し分かりやすく言おう。ここは君の住まいでもある。だから――君が歩くべき場所を、私が案内する」


私は柔らかな微笑みを浮かべ、そのまま彼女を客間の方角ではなく、居住区画の最奥へと導いた。


◇ ◇ ◇


カティアは一歩、足を止めた。


そこは私の私室の並びに位置する特別室――ルナ離宮で第二位の部屋。

もともとは将来の正妃、第一夫人となる者の居室として用意されていた部屋だった。


「……殿下?」


「ここが君の部屋だ。隣は私の執務室と私室になっている」


「……私の?」


カティアは思わず、目の前の豪奢な扉と私を交互に見比べた。

警戒よりも、今度はあからさまに困惑が滲んでいる。


私は扉を開け、彼女を部屋の中へ誘う。


内装は過剰な金飾りは避け、亜麻色の髪に映える淡いローズとクリームの基調でまとめられている。

書架には彼女向けの教育用書籍がずらりと並び、奥の衣裳棚には既に仕立てられたドレスが整然と揃えられていた。


「全て君の寸法に合わせて用意してある。衣服だけでなく、日用品も、勉学の道具も、教材も揃えてあるよ」


「……」


カティアは無言のまま、そっとドレスに触れた。

その指先に僅かに柔らかな感情が浮かぶのを、私は見逃さなかった。


(少しは喜んでくれたかな)


だがその反面、彼女の表情は複雑さも伴っている。

まるで、「こんな優しさには何が隠されているのだろう」と言いたげに。


もちろん、その警戒心も予想済みだ。


「いずれ君には様々な場面で人前に出てもらう。学ぶことは多いが、焦らなくていい」


私は微笑を崩さず続けた。


「それと、もう一人紹介しておこう」


そう言うと、脇に控えていた少女が一歩前に進み出た。

年の頃は十五、栗色の短髪に快活な雰囲気を漂わせている。


「彼女はイレーネ。君の専属侍女兼、補佐役になる」


カティアは丁寧に頭を下げた。


「第十一王女殿下、これよりお仕えいたします。至らぬ身ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします」


イレーネは礼儀正しくも、どこか柔らかい親しみを滲ませていた。


「彼女は孤児だったところをノルベルトが保護し、私の許可で離宮へ引き取った。いずれ妃を迎えるとき、その侍女候補として育てていたのだが……先に君に仕えてもらう方が良さそうだ」


カティアは微かに驚きの色を浮かべつつ、また静かに頭を下げた。


「……宜しくお願いいたします、イレーネ」


「はい!」


イレーネはぱっと花が咲くような笑顔を見せた。

その屈託のない笑みに、カティアの警戒心もほんのわずか、緩むのがわかった。


ノルベルトが苦笑しながら控えている。


(まぁ……良い滑り出しかな)


心の中で私はそっと呟いた。


こうして、ルナ離宮での新たな生活が幕を開けた――。

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