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後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました  作者: 藤原遊人


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「カティア、少しだけ待っていてくれるかな?」


帰りの馬車へと戻る道すがら、私はふと思い立って足を止めた。


「え? ……はい」


カティアは首を傾げながらも、大人しく頷いてくれる。


私はその場を離れ、近くに出ていた小さな屋台へと足を向けた。

最近王都で流行り始めている冷たい甘味――アイスクリィム。

普段、後宮育ちのカティアにはまだ馴染みがないだろう。


(きっと喜ぶに違いない)


涼やかな海風の中、私はふたつのアイスクリィムを受け取ると、急ぎ足で馬車へと戻る。


「お待たせ」


「ユーリ……? それは?」


「最近流行っている菓子でね。冷たくて甘い、不思議な食感なんだ。溶けやすいから、持ち帰るのは難しいけれど――今なら一緒に食べられる」


「……まあ!」


カティアの瞳がぱっと輝く。


馬車の中に並んで腰掛け、私は彼女に手渡した。


「少しお行儀は悪いが、馬車の中でも食べてしまおう。初めてだろう?」


「はい。……いただきます」


カティアは恐る恐る一口運び――そして目を丸くした。


「……冷たくて、甘くて……美味しいです!」


その純粋な反応に、私は思わず微笑む。

彼女が新しい世界に触れるたび、こうして無邪気に喜んでくれることが、たまらなく愛おしい。


(……本当に、可愛い)


そう思いながら横顔を眺めていると――


「ん……」


カティアの唇の端に、うっすらとアイスクリィムのクリームが付いているのが目に入った。


無意識に、私は手を伸ばしてそれを指先で拭い――そのまま、そっと舐め取ってしまった。


「――っ!」


一瞬で、カティアの頬が真っ赤に染まった。


「あっ、ご、ごめん……!」


ようやく自分の行動に気付き、今度は私自身の顔が熱くなる。


(な、何をしているんだ、私は!)


心臓が跳ねるのを感じながらも、気まずさに言葉を探していると――


「……ユーリは、ずるいです」


カティアが小さく唇を尖らせながらも、潤んだ瞳で見上げてきた。


「え……?」


「そんなことをされたら……もっと、恥ずかしくなってしまいます」


その声はとても小さく、囁くようだった。


私はもう、言葉を返す余裕すらなく――


ただ、全身で彼女の可愛さを受け止めるので精一杯だった。


(……理性よ、耐えろ。あと少し、あと少しだ……!)


馬車は静かに王都への道を進んでいく。

その中で、私の鼓動だけが、しばらくの間高鳴り続けていた。

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