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薄明かりがカーテンの隙間から差し込んでいる。
私はゆっくりと目を覚ました。
(……ん?)
目を開けた瞬間、柔らかな感触が腕の中にあることに気付く。
視線を落とせば、そこにはすやすやと眠るカティアの寝顔があった。
(……ああ)
昨夜は、さすがに私も限界だったのだろう。
徹夜続きで二夜目――理性では耐えても、睡魔には勝てなかったらしい。
気付けば、眠ってしまっていた。
そして今――私は、まるで抱き枕のようにカティアを抱きしめて眠っていた。
柔らかな髪と華奢な肩が、腕の中にすっぽりと収まっている。
(……癒される。いや、違う、今は癒されてる場合じゃなく――)
なぜ今目が覚めたのか、その違和感の正体に気付く。
「……失礼いたします、殿下」
小声ながら、はっきりと聞こえる記録官の声。
視線を向ければ、既に部屋の中に入ってきていた。
(やはり……!)
記録官は、一瞬だけこちらを見やり――
寝間着の裾が少し乱れたカティアの姿と、彼女を抱きしめる私の姿を確認し、静かに手元の記録用紙へ書き付ける。
【第三夜──妃殿下、王子殿下と情熱的な夜を過ごされ、夜明けまで寄り添われる】
(……まぁ、そう記録されるのは、むしろ意図通りなのだが……)
一応、周囲には「夜を共にしている」という既成事実を残しておく必要はある。
けれど、現実の私の葛藤はまるで違った。
(……ああ、理性は耐えても睡魔には負けたか)
静かにため息をつく。
まだ眠っているカティアを起こさぬよう、そっと髪を撫でると、彼女は嬉しそうに小さく身を寄せてきた。
(……可愛い)
全力で理性を保ちながら、私は記録官が退室するのを見送った。
◇ ◇ ◇
正午を過ぎた頃――ようやくカティアはゆっくりと目を開けた。
「……ユーリ?」
「おはよう、カティア。今日は少し寝坊だね」
「……はい。昨日は、また夜更かししてしまいましたから……」
頬を染めて小さく微笑むカティアが、心底愛おしい。
「さあ、起きようか。ブランチを用意させてあるよ」
ノルベルトの配慮により、既に食事は整えられていた。
2人でテーブルにつき、ゆったりとした朝食――いや、もはや昼食に近い時間を過ごす。
(……こんな穏やかな日々が、永遠に続けば良いのに)
ふとそんな想いが胸を過った。
食後の紅茶を手にしながら、私はカティアに問いかける。
「今日は何がしたい?」
「え?」
「今は君の好きに過ごしていい日だからね。せっかくだから、君の望みを聞きたい」
カティアは少し驚いた表情を見せ、そしてゆっくりと微笑んだ。
「……少し考えてもいいですか?」
「ああ、もちろん。ゆっくり考えて」
その笑顔に、また胸の奥が温かくなる。
(――カティア。君の願いなら、何でも叶えてあげたい)
こうして、二人きりの甘やかな休日はゆるやかに流れていくのだった。




