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後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました  作者: 藤原遊人


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「ありがとう、カティア」


私はそう言いながら、そっと彼女の髪へ手を伸ばす。

ふわりと柔らかく、絹のような手触り。軽く撫でると、カティアはわずかに肩を竦めた。


「……ユーリ」


微かに熱を帯びた声が漏れる。

けれどその瞳は、どこまでも穏やかだった。


私は一度、ゆっくりと息を整えた。

そして――本題を切り出す。


「実は、もう一つ君に贈りたいものがあるんだ」


カティアがぱちりと瞬きをする。


「……え? あの、お祝いは先ほど――」


「これは、少し特別だ」


私はそう言いながら、用意させていた小箱を手に取った。

ノルベルトが手配してくれたもので、昨日のうちに離宮へ届けさせていた。


ゆっくりと蓋を開ける。

そこに納められていたのは――透き通るように澄んだ蒼き輝きを放つ サファイアの首飾り だった。


夜空のように深く、けれど月光に照らされると水面のように淡く煌めく青。

その輝きはまさに、私の家――サファイア宮の象徴そのものだった。


「……まあ」


カティアが息を呑む。


「これは、私の――サファイア宮の象徴でもある石だ」


私はゆっくりと説明する。


「君が正式に私の妃になった今、この石を君のものにしたい。これから先、どこに出ても――君が私の正妃である証として」


カティアは首を振り、戸惑ったように視線を落とした。


「でも……私、いつも貴方からばかり頂いてばかりで……」


その声音は、嬉しさと遠慮が入り混じった複雑なものだった。


私はそっと、彼女の手を取る。


「カティア」


「……はい」


「これは私の我儘だ。君には、私が贈りたいのだ。君に身につけてほしい。――そして」


私は、わずかに苦笑しながら続けた。


「正直に言えば……これを君に纏わせて、皆に見せびらかしたい」


「……!」


カティアは一気に顔を赤らめた。


「だが一方で――」

私は少しだけ言葉を切る。

胸の奥にある本音の続きを、外交官としての微笑の裏に隠しながら紡ぐ。


「……君があまりにも綺麗すぎて、誰にも見せたくないとも思っている。まったく、王家の王子としては困った独占欲だろう?」


カティアは羞恥に耐え切れず、思わず両手で顔を覆った。


「ユ、ユーリ……そんな、もう……」


その様子があまりにも愛らしく、私は堪えきれずに微笑む。


「……けれど君は、もう私の妃だ。私が贈る物も、想いも――すべては、君だけのものだ」


ゆっくりと、私は首飾りを彼女の細い首にかける。

サファイアが月光に照らされ、柔らかな蒼の光を放った。


「よく似合ってるよ、カティア」


「……ありがとう、ユーリ」


その微笑は、これまでで一番柔らかく、幸福に満ちたものだった。


私はそっと、彼女の手を取ったまま、もう一度心の中で強く誓った。


(君を、どこまでも大切にする。私の隣に在るのは――君だけだ)

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