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後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました  作者: 藤原遊人


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夜のルナ離宮。

静けさの中に、甘く淡い緊張感が漂っていた。


控えめに扉をノックする音が響く。


「カティアです」


「待っていたよ、お入り」


ゆっくりと扉が開かれ――そこに現れたのは、思わず息を呑むほどに美しく着飾ったカティアだった。


純白の薄手のローブに、淡いサクラ色のリボンと刺繍が施され、長い髪はイレーネの手によって柔らかく結い上げられている。

化粧もごく薄く施され、幼さを残しつつも、年齢以上に大人びた気品を漂わせていた。


(……イレーネ)


私は内心、額を押さえた。


(完全に“そういう夜”の準備をさせてしまったな……)


そうだ――私はイレーネに、今夜の意図を伝えそびれていたのだ。

まさか、本当に新婚初夜の準備を整えさせてしまうとは。


(……いや。今さら慌てても仕方がない)


私が本気で彼女を求める気など、今はまだない。

十四歳の彼女を、これ以上踏み越えるつもりは決してなかった。


だが、離宮とはいえ王宮直属の施設。記録官による報告も日々上がる仕組みは後宮と変わらない。

記録官が意図せず記録する可能性も考えれば――床を共にしているという事実だけは、きちんと残しておくべきだ。


私は柔らかな笑みを浮かべ、彼女に手を差し伸べた。


「今夜は君とこうして過ごせることを楽しみにしていたよ、カティア」


カティアはわずかに頬を染めながら、私の手を取る。


「……私も、お話できるのを楽しみにしていました」


私は彼女を自室の奥――ベッドへと導いた。


腰掛けると、カティアも私の隣にそっと座る。

ほのかに香る花のような匂いが、すぐそばから漂ってきた。


(……危険だ)


理性は常に冷静さを保っているつもりだった。

だが彼女がこうして隣にいると、体の奥底から何かが疼き出すようだった。


「カティア」


「……はい」


私は小さく息を吐き、慎重に言葉を紡ぐ。


「君はもう正式に私の妻となった。だが、私は……少なくとも君が十八歳になるまでは、これ以上のことは望まないつもりだ」


カティアは驚いたように目を丸くし――すぐにふわりと微笑んだ。


「……ありがとうございます、ユーリ」


「ただ……」


私はそっと彼女の肩を抱き寄せた。


「こうして君のぬくもりを感じるだけなら……許してもらえるだろうか」


カティアは顔を真っ赤に染めながら、小さく頷いた。


「……もちろん、です」


そのまま私は彼女を抱き締めた。


温かい。柔らかく、繊細で、それでいて確かなぬくもりを宿している。


(……危険だ。本当に、癖になりそうだ)


理性の奥でそう呟きながらも、私は静かに目を閉じた。


「カティア。君は今夜も、とても綺麗だ」


「……ありがとうございます、ユーリ」


耳元で小さく囁かれたその声が、ますます私の胸を締め付ける。


だが今夜は、ここまでだ。


私はカティアの額にそっと口付けると、彼女の手を取ったままベッドの中に並んで横たわる。


「……君のこれまでの話、よければ今夜、ゆっくり聞かせてくれないか」


「……はい、ユーリ」


柔らかな笑顔のまま、カティアは私の手を優しく握り返してくれた。


(君のすべてを、もっと知りたい)


そんな想いが胸の奥で静かに燃え始めていた。

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