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後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました  作者: 藤原遊人


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ルナ離宮の晩餐室は、今夜だけ特別に二人きりのために用意されていた。

煌めくシャンデリアの下、上質なテーブルクロスと食器が静かに光を反射している。


カティアと私の婚姻成立と、十四歳の誕生日を祝うささやかな祝い膳。

侍従たちも必要最低限の人数に絞られ、静かで穏やかな時間が流れていた。


「……カティア、改めて。誕生日、そして正式に私の妃となってくれたことを――ありがとう」


「……はい。私こそ、ありがとうございます、ユーリ」


カティアは柔らかな笑みを浮かべて一礼する。


その隣では、ノルベルトとイレーネがそれぞれ深く頭を下げた。


「カティア様、心よりお祝い申し上げます」


「これからも、殿下とカティア様のお幸せをお支えいたします」


「……ありがとうございます。ノルベルトさん、イレーネさん」


カティアは僅かに頬を染めながら、二人の祝辞を受け取った。


出された料理は、カティアの好物を中心に選び抜かれている。

王都でも指折りの料理長が腕を振るっただけあり、香りも彩りも申し分なかった。


「……美味しいですね」


カティアが嬉しそうにナイフとフォークを動かす様子を、私は微笑ましく眺める。


ふと、カティアがぽつりと呟いた。


「こうして……お誕生日を祝っていただくのは、はじめてなのです」


「……え?」


思わず聞き返してしまった。


「後宮にいた頃は、鉱石宮の部屋付きでしたから……誰かに祝っていただくということが、ありませんでした」


淡々と告げるその声音に、私は胸が締め付けられた。


私の幼い頃を思い出す。

サファイア宮にいた私は、父王や兄王子たち、後宮の妃たちや妹王女たち、ノルベルト、側近たち――

毎年誰かしらが祝いの言葉や贈り物をくれたものだった。


それが、当たり前だと思っていた。


(……私は、あの子の「はじめて」を、今まで考えたことがなかったのか)


喜びの中にわずかに寂しさを滲ませたカティアの表情が、胸に刺さる。


(もっと早く、気付くべきだった)


私はそっと息を吸い込み、心の中で静かに決意を新たにする。


(来年は、盛大に祝おう。いや――今年だって、まだ遅くはない)


さりげなくナプキンを整えるふりをしながら、私はノルベルトに視線を送った。

それだけで彼は瞬時に察したらしく、小さく頷く。


(……明日の午後に、商人を呼ぼう)


今夜は二人きりで静かに。

だが明日からは――カティアの「幸せだったと思える誕生日」を、毎年贈っていくのだ。


私は改めて、目の前の少女を見つめた。


「……カティア。今日、君の初めての誕生日祝いを共にできて、私も本当に嬉しい」


「……ありがとうございます、ユーリ」


彼女は、微笑みながら、そっと手を重ねてくれた。


そのぬくもりが、胸の奥まで優しく染み込んでいくのだった。

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