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後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました  作者: 藤原遊人


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穏やかな午後のルナ離宮。

サロンの窓からは柔らかな春の光が差し込み、ゆったりとした時間が流れていた。


カティアと向かい合いながら紅茶を口にしていると――

ふいに、昨日の記憶が脳裏をよぎり、私は思わず額に手を当てた。


(……思い出してしまった)


昨日の夜――

私はカティアの前で、あろうことか取り乱し、泣き疲れて彼女の腕の中で眠ってしまったのだ。


外交を担う王子として、常に冷静沈着であろうとしてきた自分が。

よりにもよって、彼女の前であんな無様を晒すとは。


「……はぁ……」


自然と深い溜息が漏れる。


「ユーリ?」


カティアが不思議そうにこちらを覗き込んでくる。


私は苦笑しながら顔を上げた。


「……昨日の私のことを思い出していた」


「昨日の?」


「カティアの前で……感情を抑えきれず、取り乱して……挙句に泣き疲れて眠ってしまったことだ」


言葉にすればするほど、情けなさが込み上げてくる。


「君の前では、もっと格好良くありたかったのだがな」


私が項垂れると――カティアはふわりと微笑んだ。


「ユーリは、いつも十分に格好良い方です」


その言葉に、胸がじんわりと温かくなる。


「後宮にいた頃から、私は遠くからユーリのお姿を見上げておりました。冷静で、優しくて、常に毅然としていて……私にとって憧れのお方でした」


「……カティア」


「でも、昨日のユーリは――初めて、心の奥に触れられたようで。私は……とても、嬉しかったのです」


そう言ってカティアは少しだけ照れたように微笑んだ。


「ユーリがああして心を許してくださったのは、私だけでしょう? 私だけが知るユーリの姿です」


私は思わず言葉を失った。


あの夜、自分が見せてしまったみっともない姿すら――

彼女はこうして、大切に胸にしまってくれている。


「……ありがとう、カティア」


私は小さく頭を下げた。


カティアは、穏やかな微笑みでそっと私を見つめ続ける。

その眼差しが、どこまでもあたたかく、私の胸を満たしていく。


少しだけ迷った末に、私は口を開いた。


「カティア。――今日の夜も、また私の部屋で少し話をしよう」


「……はい」


「今夜は……君の話を聞かせてほしい」


そう伝えると、カティアは僅かに頬を染めながら、柔らかく微笑んで頷いた。


──静かな、穏やかな時間が、また一つ積み重なっていく。

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