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後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました  作者: 藤原遊人


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正式な王命が下り、後宮での儀礼も一通り終えた私は、予定通り執務を休み、ルナ離宮へと帰還していた。


執務机の上は今だけは整理され、積まれた書簡の山もない。

これほど机の表面が見えているのは、離宮設立以来かもしれない。


(……ようやく、こうして二人の時間が取れる)


国王陛下から与えられた「三日の休暇」。

本来ならば、新婚の夫婦が夫婦としての契りを交わし、子を成すことを期待された期間。


だが私は――十八歳にも満たぬ彼女に、今はまだ本当の意味での夫婦の営みを求めるつもりはなかった。


もちろん、もし後継を急げという周囲の圧力があったとしても、避妊のための魔法薬は私の身体に既に巡っている。

カティアが非難される筋合いはない。それは、この王家に仕える者なら誰もが理解していることだ。


(それでも、誤解や噂を好む者たちはいるだろうが……)


そんな些細な囁きなど、今の私には取るに足らない。

それよりも――。


「殿下」


控えめな声が扉の向こうから聞こえた。

私が「入れ」と促すと、カティアが静かに部屋へ入ってくる。


新たに仕立てられた正妃としての衣装に身を包んだ彼女は、まだ少しだけ着慣れない様子を見せつつも、自然に美しかった。


「本日より、三日間のご静養でございますね。殿下は何かご所望がございますか?」


彼女はあくまで冷静に、けれどほんの僅かに頬を染めていた。


私は少し微笑んだ。


「特別なことは何もない。ただ――せっかくの時間だ。少し君と静かに過ごそうと思っている」


「……はい」


カティアは静かに微笑を返して、そっと控えの侍女たちを下がらせる。


そして、並んで用意されたティーセットへ向かうと、慣れた手つきで茶葉を蒸らし始めた。


ポットから注がれる琥珀色の液体。

その香りは柔らかく、落ち着いた甘さを湛えている。


「今日の茶葉は、以前殿下がアルセリアから持ち帰られたものです」


「……あの時の」


「殿下がわざわざ手に入れてくださったものでしたから、大切に取っておいたのです」


ほんのりと微笑む彼女を見つめながら、私はゆっくりとカップを手に取った。


(本当に……こうして隣にいてくれるだけで、満たされてしまう)


恋情という言葉をまだ口にする勇気はない。

けれども――

それに極めて近い感情が、自分の内に静かに育っているのを私は確かに自覚していた。


「こうして、二人で静かに過ごせる時間を――私はずっと欲していたのかもしれない」


私の呟きに、カティアが小さく瞬きをしてから微笑む。


「私も、ユーリと共に過ごせるのは幸せでございます」


その言葉が、心に温かな灯をともす。

本当に――彼女は、私にとって唯一無二の存在だ。


けれど、今はただこの穏やかな時間を味わいたかった。


私たちは静かにカップを傾け、互いの存在を隣に感じながら、柔らかな午後の光に包まれていた。

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