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その後、国王陛下の御前。
陛下はゆったりと微笑を浮かべ、私に視線を向けた。
「ユーリよ。記録官からの報告と、そなた自身の提出した文書、確かに受け取った」
「はっ」
「そなたの判断、妃候補カティア・アゲート・アレストの件――余も了承する」
その言葉を受けた瞬間、胸の奥に溜め込んでいたものが静かにほどけていくのを感じた。
(……これで、ようやく彼女を守ることができる)
外交や王宮のしがらみに細心の注意を払いながら、彼女の才能を磨き、守り、共に歩んできた。
だが、まさか私がこのように心を傾ける日が来ようとは――つい先日まで、思いもよらなかったことだ。
カティアを正式に妻として迎え入れる。
それは私にとって――初めて手に入れる、心からの「居場所」だった。
国王陛下はさらに続ける。
「これにより、第六王子ユーリ・サファイア・アレストの正妃として、カティア・アゲート・アレストは王家に迎えられる。必要な手続きは後宮と大司祭へ通達しておく。……さて」
ふっと口元を緩め、陛下はどこか愉快そうに私を見つめた。
「新婚初夜のあと、三日は執務を免除してやろう。存分に夫婦の契りを深めるが良い」
思わず、耳まで熱くなるのを自覚する。
(……陛下!?)
だが陛下は、からかうように目を細めたまま続けた。
「微笑ましいものだな。とはいえ――カティアはまだ若い。くれぐれも無体はするなよ、ユーリ」
「……は、はい……」
顔を上げるのも憚られ、私は深々と頭を下げた。
玉座の間に並ぶ重臣たちの間にも、微かな笑いが漏れる。
だがそれは冷笑ではなく、祝福の色を帯びた穏やかな空気だった。
(カティア……)
彼女の柔らかな笑顔が脳裏に浮かぶ。
(必ず、幸せにする。私の隣に立つのは――もう君しかいないのだから)
こうして、正式にカティアは私の正妃となった。




