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アレスト王国で開かれた外交茶会は、王城の大広間を贅沢に飾り立てて行われていた。
各国から集まった使節や王族たちの間を、華やかな衣装を纏った人々が行き交っている。
私は今回の茶会に、補佐役のカティアを同伴させていた。
「……やはり賑やかですね」
隣に立つカティアが小さく微笑む。
「外交とは、表に出ているのは微笑みと礼儀作法ばかりだが、裏では複雑な駆け引きが渦巻くものだ」
私が静かにそう告げると、カティアはこくりと頷いた。
「ですから、注意深く耳を傾ける必要がございますね」
そう言って微笑むその横顔に、私は静かに目を細める。
カティアは既に、表面だけでなく水面下を読み取る感覚を身につけつつあるのだ。
◇ ◇ ◇
しばらくして、私はアレスト宰相の老貴族と挨拶を交わしている間、カティアは別の輪の中にいた。
相手は、隣国より訪れていた王妃だった。
優雅に振る舞ってはいるが、時折ふと浮かぶ寂しげな表情――それに、カティアはすぐ気付いたのだろう。
「……陛下のお噂はよく耳にしておりますわ。とてもお優しく聡明なお方と」
カティアの柔らかな言葉に、王妃はわずかに驚いたように目を細めた。
「まあ、優しいのは確かですけれど……私のような若輩にとって、異国の宮廷はまだ少し心細くて」
その打ち明けに、カティアは静かに寄り添うように微笑んだ。
「新たな土地で慣れるまでのお辛さ、少しわかりますわ。私も以前、後宮から王宮に出て参りました時に、慣れるまで不安な夜が続きました」
「……まあ、あなたも?」
王妃の顔に、共感の色が浮かぶ。
そこから先は、自然と柔らかな会話が続いていった。
王妃の口元にも、ようやく本当の笑みが灯る。
◇ ◇ ◇
それを離れた位置から見守っていた私は、思わず苦笑していた。
(……相手の心の奥に、自然と触れていく。まさに天性だな)
王妃に気に入られたのは明らかだった。
アレスト宮廷でも、その光景に好意的な視線が注がれている。
本来なら誇らしく感じるはずだ。
だが――
(……妙に胸がざわつく)
この胸騒ぎの正体が何なのか、私はまだ掴めずにいた。




