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後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました  作者: 藤原遊人


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アルセリア王宮での任務を終え、私たちは再び王都へと向かう馬車の中にいた。


春の陽射しが降り注ぎ、馬車の車窓には穏やかな田園風景が流れていく。

任務は滞りなく終わった。外交的にも上々の成果と言っていいだろう。


馬車の中は静かな空気に包まれていたが、ふとカティアが柔らかな声で話しかけてくる。


「ユーリお兄様、本日は貴重な機会をいただき、ありがとうございました」


私は少しだけ肩をすくめる。


「今さらだな。君は既に、補佐役として十分以上の働きを見せてくれている」


「いえ、まだまだ学ぶことばかりですわ」


カティアはそう言いながら、控えめに微笑んだ。

最近はこの柔らかな笑顔を見る機会も少しずつ増えてきている気がする。


だが――私はそこで、ある違和感を覚えた。


「……ところで、最近になって『お兄様』と呼ぶようになったな」


「ええ、周囲の方々が皆そうお望みですもの」


「私は今まで通り『ユーリ』と呼んでくれて構わないのだぞ」


そう告げると、カティアは一瞬だけ迷うように視線を伏せた。


「……それは」


小さく息を吸った後、穏やかに、けれど僅かに硬さを帯びた声音で答える。


「外交の場で誤解を招いてはなりませんから」


その表情には、ごくわずかに逡巡が滲んでいた。

理性で自分を律しているように思えるその様子に、私は言葉を失う。


もちろん、外交的配慮として正しい判断だ。

だが、ほんの少しだけ――胸の奥に小さな棘が刺さるような違和感が残るのを覚えた。


私は苦笑し、窓の外の景色へと視線を向け直した。

春の光に包まれた王都の街並みが、ゆっくりと近づいてくる。


(……カティアの年齢を考えれば、今はまだ”お兄様”に甘んじるべきなのだろう)

(だが――それでも。私は彼女に『ユーリ』と呼ばれていた、あの距離感を望んでしまう自分がいる)


理性が囁く一方で、胸の奥にわずかな疼きが残る。


(……いつから、私はこんなにも彼女の言葉一つに揺さぶられるようになったのだろう)


それでも、今はまだ――自分のその感情に、名前を付ける覚悟は持てずにいた。

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