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後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました  作者: 藤原遊人


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翌日、アルセリア王宮の離れに設けられた庭園で、小さなお茶会が開かれた。

王太子殿下とその妃サクラ殿下、アレクシス殿下とリディア妃殿下、そして私とカティア――総勢六名の静かな集いである。


柔らかな陽光が降り注ぐなか、季節の花々が彩る庭園は、実に優雅で落ち着いた空気に包まれていた。


表面上は和やかな歓談の場。だが、こうした場における会話は、時に思わぬ方向へ転ぶものだ。


王太子殿下がふと思い出したように口を開いた。


「そういえばユーリ殿下。以前こちらにお越しくださった時のこと、今でも時々話題になりますよ」


「まぁ。こちらにもいらしていたのですね」


カティアが柔らかく微笑みながら、興味深そうに身を乗り出す。


その瞬間――サクラ妃殿下がぱっと表情を明るくして声を弾ませた。


「そうなんですよ! その時にユーリ殿下、リディア様に求婚されたんですの!」


「まあ……!」


カティアは驚いたように目を瞬かせたが、すぐに穏やかな微笑みに戻った。


「お兄様が、王弟妃殿下に? 妹として拝見してみたかったですわね」


私は思わず咳払いをして誤魔化したが――


「そ、それは少し事情があって――」


思わず弁明を口にしようとした瞬間、カティアはさらに柔らかく微笑んで言葉を重ねた。


「お兄様のそういうお話、私、これまで聞いたことがありませんもの。ぜひ詳しく伺ってみたいですわ」


その様子に、サクラ妃殿下は待ってましたとばかりに嬉々として話し始める。


「まあまあ、では私がお話しますわね! その時、王宮に到着されたユーリ殿下はとても堂々としていらして――まるで騎士物語のようで、とても格好良かったのですわ!」


私は苦笑いしながら紅茶を口に運ぶ。


(……カティア、うまくかわしながら情報を引き出しているな)


だがそれを妹の天真爛漫さとして自然に装っているのが、なおさら恐ろしい才能に思えた。


(……妹として、か)


理由の分からぬ違和感が、胸の奥に微かに残る。

だが私は、その思考を追うのを避けるように静かに紅茶を飲み干した。


◇ ◇ ◇


そんな私の様子を、アレクシス殿下とリディア妃殿下は静かに眺めていた。

ほんの一瞬だけ二人が視線を交わす。


言葉を交わさずとも、その目の動きだけで察しているのがわかった。


彼らは既に気付いているのだ。

――私が、カティアを妃候補として見据えていることに。


◇ ◇ ◇


やがてアレクシス殿下が、柔らかな微笑を浮かべながら探るように口を開いた。


「ユーリ殿下は、妹姫殿下にも随分と目をかけておられるようで。いずれはどこか有力な貴族家へと良縁をお探しなのでしょうか?」


「……いえ」


私はすぐに否定した。


「まだ学びの最中にございますので、当面は王宮にて補佐役として鍛えるつもりです」


「ふむ……惜しい話ですな。王家直系の姫君ともなれば、我が国にも名乗りを上げる貴族は多くおりますゆえ」


柔らかな言葉の奥に、確かな探りが含まれている。

私は苦笑を浮かべ、さらりと受け流した。


「その節は、また改めてご助言を仰がせていただきます」


リディア妃殿下も、そのやり取りを楽しげに微笑みながら見守っていた。


◇ ◇ ◇


カティアは静かに紅茶を口に運び続ける。

柔らかな微笑みの奥に、ごく僅かながらも観察の光が揺らいでいる。


私は心の中で静かに感心していた。


(……本当に、優秀な少女だ)


外交の場に立たせても十分に通用する柔軟さと聡明さ。

だがその優秀さに、私はどこか――妙に胸の奥がざわつくのを覚えていた。

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