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後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました  作者: 藤原遊人


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「殿下、商人たちの支度が整いました」


ノルベルトの声に、私は軽く頷く。

ルナ離宮の応接間。

今日の買い物は、宮廷でも評判の良い仕立屋と宝飾商を呼び寄せてのものだ。


「さあ、カティア。遠慮せず選んでごらん」


「……ですが、殿下」


カティアは控えめに目を伏せたまま、困ったような声音を返してくる。


「こんなにも多くの衣装や装飾品を……。まだ私は殿下の正式な妃ではございませんのに」


「それは関係ない」


私は穏やかに言葉を重ねる。


「今は君のために整える時だ。今後、宮廷の場に出る機会も増える。相応しい衣装も必要になる」


「……」


カティアはさらに小さく唇を噛み、視線を落とした。

自分にこれほどの贅沢を施す理由がまだ受け入れきれていないのだろう。


私はそんな彼女の様子を眺めながら、ふと自然に口が動いていた。


「それに――」


「?」


「……私が、君に身につけて欲しいと思ったからだ」


言葉に出してから、我ながら少し驚いた。

だが、確かにそう思ったのだ。


その瞬間、カティアがぴたりと固まった。

わずかに紅潮した頬が、耳元まで赤く染まっていくのが分かる。


「……っ」


「カティア?」


「……そ、そんな……」


小声で戸惑いの声を漏らすカティア。

普段は冷静な彼女の、年相応の少女らしい仕草が新鮮で――不思議と胸の奥が温かくなっていくのを感じていた。


「ふふ……可愛らしい反応ですね」


背後からのノルベルトの呟きに、私は一瞬だけ軽く咳払いをして誤魔化した。


「余計な口出しは無用だ、ノルベルト」


「心得ております、殿下」


ノルベルトは苦笑を深めながらも、静かに頭を下げた。


◇ ◇ ◇


その後も試着は続き、カティアのために数着のドレスと宝石が新たに用意された。

慎ましやかに礼を述べる彼女の頬には、まだ淡く赤みが残っている。


私はそっと目を細める。


(……こうして君の表情が柔らかく変わっていくのを見るのも、悪くないな)


まだ自覚はしていない。

けれど、確かに何かが静かに芽吹き始めている――そんな感覚を覚えていた。

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