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後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました  作者: 藤原遊人


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翌朝、ルナ離宮・執務室。

朝の柔らかな光が書類を照らす中、私は手を止めてふと昨日の光景を思い返していた。


「……いやはや、驚かされましたな」


ノルベルトが、苦笑混じりに静かに呟く。


「カティア殿下の観察眼もさることながら――あの傾聴の技術。まるで幾度も宮廷交渉を経験してきたかのような老練ぶりでした」


「本当に、そう思うよ」


私は手元の書簡を閉じ、小さく息を吐いた。


「相手の表情、間の取り方、声の抑揚、隠された本音の所在……見事に把握していた。あの場にいた妃たちも、まさか彼女が情報を引き出していたとは気付くまい」


「殿下が外交へお連れになる日も、そう遠くないかもしれませぬな」


「いや、もはや今すぐにでも連れて行けるだろう」


私は素直にそう呟いた。


(ここまで才覚を備えているとは――埋もれていた年月が惜しい)


だが――


「……ふふ」


私は思わず小さく笑ってしまった。


「どうかなされましたか?」


「いや。いや、なに……」


私は自分の内心に少し戸惑っていた。


昨日の帰り道。

王宮内で買い求めた珍しい新作菓子を手渡した時のことが、ふと胸によみがえっていた。


「まあ……初めて見るお菓子です」


いつもの冷静な仮面をほんの僅かに外して、驚きと嬉しさが滲む声色。

警戒心ではなく、年相応の少女らしい純粋な好奇心が顔を覗かせていた。


「いただきます」


そう言って嬉しそうに菓子を頬張る彼女の表情――

それが、妙に印象に残っている。


(……可愛い、か)


私は内心で呟き、少しだけ首を振った。

今まで彼女を「才ある王女」として見ていた自分に、微かな変化が芽生えているのを自覚する。


「殿下?」


ノルベルトが、わずかに口元を引き結びながらこちらを窺っていた。


「……まだ幼い。私にとっては、妹のようなものだ」


私は静かに言い切った。


ノルベルトは苦笑しながら、控えめに頷いた。


「――ええ、もちろん、そのように理解しております」


その声音には、皮肉とも遠慮ともつかぬ柔らかな含みがあったが――

私はあえてそれ以上は追及しなかった。


視線を戻した執務机の上で、朝陽に照らされる書簡の文字がやけに鮮やかに映っていた。

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