表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/30

健康診断


 翌日、午前と午後で別のお医者様がいらっしゃった。

 午前のお医者様には体を見ていただく。

 発情期を薬で止めていた話をするとものすごい顔をされた。

 やはりオメガにとって発情期を薬で止めることはものすごい体への負担なのだという。

 あまりにも怖い顔で言われたので思わずすみません、というと、その薬を僕に与えた人間に怒っているのであって僕に怒っているわけではないと言われた。

 基本的に発情期はオメガの生殖能力に直結しており、それを無理やり止めるのは身心への負担になる。

 自分ではよくわからない、と言ったのだが不眠や取れない疲れ、気怠さ、思考、集中力の能力低下などに現れるそうだ。

 どうしよう、全部心当たりがある。

 お医者様すごい。

 

「逆にそんな状況で突然薬をやめてしまうと、反動で発情期が来た時に非常に重いものになってしまうかもしれません。発情期が重いオメガはパートナーが近くにいなければ、水分補給を忘れて行為に耽り、水分不足で死んでしまう例もあります。発情期が来たことがない、ということは発情期の兆候もご存じありませんか?」

「そうですね……わからないです」

「まず……」

 

 そうして延々発情期の兆候を説明されたけど、難しくてよくわからなかった。

 後ろに控えていてくれたエレンさんとジェーンさんが代わりに聞いていてくれたからまあ、僕が聞いていなくても大丈夫だろう。多分。

 こういうのも薬の影響で思考低下しているせいなんだろうか?

 

「では、カミル様の発情期の際はわたくしどもが注意深くしておればよいということでしょうか?」

「アルファ女性ではない、普通の女性であればなにも問題ございません。ですが、カミル様は発情期自体が未経験とのことですので、相当重いものになることが予想されます。できればパートナーの方……アルファの方が(つがい)にした方がいくぶん軽く済むと思います。とにかく、水を飲むこと! これを本当に注意してください。初めてならば腹上死することはないと思います」

「ふくじょうし……」

 

 確か、興奮しすぎて心肺停止になること、と性技を教えてくださった先生が言っていたな。

 っていうか、発情期ってそんなに恐ろしいものなの……?

 普通に不安になってきた。

 

「万が一のことも考えて、必ずパートナーの方とご相談してくださいね。ご相談くだされば私もはせ参じますので」

 

 という感じで、午前の先生の診断は終わり。

 健康面は問題なし。

 薬の副作用による不眠や取れない疲れ、気怠さ、思考、集中力の能力低下などの方が心配、とのこと。

 今後も定期的に検診は受けるように、と言われてしまった。

 そして午後のお医者様。

 

「レンズはこちらでよさそうですね。フレームのお色はどうされますか? 人気なのは琥珀を利用したフレームです。色も明るい黄色で気分も明るくなりますし、なにより軽い! しかし一般的なのはフォンタ鉱石を加工したフレームでしょうか。こちらは限界まで軽量化することに成功し、さらに色粉を混ぜることで多種多様なフレームを現実化した最新式! お好みに合わせて色も形もカスタマイズを受けつけることがございます! 一番人気なのはロウダ樹から直に掘り起こしたフレーム。一番人気の理由はそのお値段! 鉱石や宝石を使ったものとは安さが違う! お値段がなんと半分! レンズにお金をかけたい方は、ロウダ樹の眼鏡がおススメです!」

「え、ええと……は、はあ……」

「はあ……。申し訳ありません。先にレンズを確認ください。計測用フレームは重いかと思いますがこちらをおかけください」

「は、はい」

 

 古びた木箱から複数の小さなガラス――レンズを取り出して計測フレームというものに詰めて手渡される。

 それをつけたら、世界がくっきりと見えて目を見開いた。

 な、なに、これ。

 

「な……なんですか、これ。え? 世界が……景色がくっきり見える……!? どうして? こんなことがあるんですか? なんですか、これ……。こ、これが、眼鏡……?」

「見え方はどうですか? 片方が強いと疲れてしまうので、できれば均等に見え方を調節したいのですが」

「え、ええと……」

 

 片方ずつ計測して、自分の視力に合ったレンズを選ぶ。

 そのレンズにはそれぞれ度数というものが設定してあり、僕自身の視力に合う度数のレンズがわかると今度こそフレームを選び、はめる。

 午後に来た二人のお医者様……一人が度数を測り、もうお一方がまるで商人のように様々なフレームを勧める役。

 

「色見本はこちらです」

「あ、薄い紫色、かわいいですね」

「ではフレームはこちらで。ちなみに皆さん予備も作られるのですが!」

「ぼ、僕の一存でそこまでは……」

 

 それに、これは健康診断となにか関係あるのだろうか?

 眼鏡ってものすごく高級品のはず。

 眼鏡をつけている人は王侯貴族の中でも高位の人ばかり。

 僕にはとても高価すぎて。

 でも、さっき計測の時に見えた世界は本当に素晴らしかった。びっくりした。

 世界って、普通の人ってあんな風に見えているんだ?

 あまりにもすごすぎて、まだ胸がドキドキとうるさい。

 こんなの生まれて初めてで、自分でも自分が今、訳がわからない。

 緊張と、今まで見えていた世界と眼鏡を通した世界がすごすぎて体がガタガタ震えている。

 僕の反応が予想外だったのか、ジェーンさんに心配されてしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ