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家事習い始めてみる


 次の日から読書だけでなく、掃除のやり方を教えてもらうようになった。

 次は洗濯と料理、裁縫も覚えておいた方がいいだろうと言われたが、まずは掃除。

 いっぺんには覚えられないだろう、と。

 そういうものなのか、と思いつつ床を箒で掃く。

 集めた埃や砂は塵取りで取るか、階段から玄関まで掃いて外へ出すらしい。

 そのあたりは他の仕事の兼ね合いで、時間短縮するかどうか決める。

 結構考えながらやるんだな、と感心した。

 そして、普段ほとんど読書で動かない僕にとって掃除はなかなかの肉体労働。

 自分でも驚くほど息切れした。


「まあ、大丈夫ですか? カミル様」

「そういえばお体が弱いんでしたね……無理せず今日はこのくらいにいたしましょうか」

「い、いえ、……もう少し、やります……頑張ります……っ」


 このくらいでへこたれていたら、一人暮らしなんてできない。

 しかし二人は顔を見合わせる。

 自分が借りている部屋を一人で掃除しただけなのに、肩で息切れしてしまう僕はよほど体力がないと思われたのだろう。

 ……実際その通りなんだけれど。


「で、では、次は窓掃除をしてみましょうか。今雑巾とバケツをお持ちしますね。それまでしっかりと休んでいてくださいませ」

「そうですね! しっかり休んで窓掃除の体力を回復しておきましょう!」


 二人の優しさが逆に胸に刺さる。

 そんな反応をされると、自分が自活できない気がしてきた。

 た、ただ生活するだけなのにこんなにできないなんて思わなかった。

 僕、こんなに能無しの役立たずだったのか。

 父や前夫の言っていた通り、誰かの役に立つどころか自分で自分の世話もできない。

 あまりの情けなさに顔が上げられなくなる。


「カミル様、掃き掃除のやり方はもう理解できたと思いますので本日はこちらをお勉強してくださいませ」

「ほ、ほえ……ぁ?」


 かつかつ、とソファーの背もたれに体重をかけていたところにディレザさんが入ってくる。

 手には数冊の本。

 読書? と少し気持ちが浮上したが、しっかり「勉強」と言っていたので姿勢を正す。


「えっと、それは?」

「昨日婚姻についてもお聞きになっておりましたので、貴族の奥方が学ぶマナーや仕事に関する資料をお持ちしました。一人暮らしをして自活をする、という目標もよろしいですが、同時進行で貴族の妻たる者の務めも学んでいく方が選択肢が増えてよいだろうとのことです。その様子ですと肉体労働は難しそうですしね」

「う……」


 ぐうの音も出ません。


「もしかしたらフェグル元伯爵の下で側室の勉強はされていたかもしれませんが」

「あ、えーと……はい。少しだけですが……」

「正妻がいたそうですから、その方のサポートを?」

「いえ、言い方はよくありませんが、正妻は愛玩用の愛人の管理が主だったように見えます。正妻の事務仕事と側室の事務仕事をそれぞれ肩代わりする役目の、メイド? がいまして」

「そのお話、ヘルムート様にはなさいましたか?」

「え? いえ……? そういえばしたことはないです……? 多分……」


 仕事をしているメイド服の女性は、今思うと首輪をしていたような気がする。

 メイド服以外も着ていた気がするけれど、眼鏡のなかった頃の僕にはいつも同じメイド服のようなエプロンドレスだったから違いがよくわからない。

 こう言ってはなんだけれど、正妻と側室たちの顔もよく見えていなかったから覚えていなかったり。

 正妻たちの顔を覚えていない件は、ヘルムート様にもお伝えしたけれど。


「お伝えした方がいいかもしれませんね、その情報は」

「そうなのですか? なにか意味があるのですか?」

「フェグル元伯爵の家の運用状況を把握している方が、まだ確保できていない可能性があります。家計の状況がわかれば、フェグル元伯爵のお金の流れがわかりますから」

「お金の流れ……?」


 それがなにかの役に立つものなのだろうか?

 聞き返すと困ったように微笑まれてしまった。

 僕にはまだわからない、勉強不足な部分らしい。


「手紙でお伝えしておきますね。こちらを読んでおいてください。それと、お金の管理の仕方を教えてくださる先生もお願いしておきましょう。実際にご自分で管理してみるとわかりやすいかと思いますから」

「そう、ですね」


 お金、確かに自分で持ったことがない。

 使ったこともない。

 商人が前夫の屋敷に来て正妻や愛人が買い物をしていた時も、部屋の隅にいるように命じられて買い物には参加したことがないから。

 そういうお金は夫のお金……フェグル元伯爵のお金。

 考えたことはなかったけれど、貴族ってどうやってお金を得るのだろうか?


「でもカミル様、計算はできましたよね?」

「はい。そのあたりは勉強してきたことなので。でも、任せてもらうことはなかったですね」


 元々実家の跡継ぎである兄のサポートのために計算は勉強した。

 でも、結局実家からはオメガだとわかった途端嫁がされ、嫁ぎ先でも教わるのは性技ばかり。

 それを聞いたディレザさんはジェーンさんに「計算の練習問題書を」と頼み、持って来させる。

 僕の計算能力がどんなものなのかをみたいそうだ。

 その計算問題をしている間にディレザさんはヘルムート様へ手紙を書く。

 内容は僕が先程言ったこと。


「ちなみに、他に家のことを担う女性、もしくは男性はいましたか? あとは、家を出入りする商人以外の人間についてなど……」

「ええ? 性技の講師の方とかでしょうか?」

「そ、その方以外では?」

「ええ……? う、うーん……」



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