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喧嘩?


「ヘルムート様、僕、お邸を早めに出て仕事に就きたいと思うのですが……」

「そうか。そう思えるようになったのはいい傾向だが、奴隷呪の首輪が外れないことには賛成できない。物件についてはこちらでよさそうなものを見繕っておくが、もし外に出かけたいのであれば首を隠してディレザを連れて行くか、私の休みの日にしてほしい。仕事についてもオメガ男性が優遇されるところから業務内容と福利厚生、給与についてを取り寄せておく」

「え……あ……は、はい。わかりました。よろしくお願いします」

 

 想像していた反応とは違った。

 夕飯の時に昨日考えていた就職と邸を出て自活することの決意表明をしたけれど、こんなにもあっさり……でも、だからこそやはり、という気持ちにもなる。

 ジェーンさんとエレナさんはああ言っていたが、ヘルムート様にとって僕は“保護対象”でしかない。

 

「重ねて言うが……あくまでも自活するのは奴隷呪の首輪が外れたあとだ。それだけは譲れない。あなたの安全のためでもあり、あなたに奴隷呪の首輪を着けた者たちの思惑を阻む意味もある。捜査状況を話すことはできないが、あなたは今、あなたが思っている以上に危険な状況だ。禁止せずとも庭にも出ないのはさすがに不健康に感じるが……」

「僕って危険な状況なんですか?」

「フェグル元伯爵が関わっていた犯罪組織が男のオメガをほしがっていた。知っての通り男性オメガは珍しい。他国から連れてくるのは運送費がかかるため、国内で確保したかったらしい」

 

 さらに言うと、僕の場合貴族なのに親がフェグル元伯爵に“売っている”。

 法で禁止されているのに“結納金”という形で金銭の授受が行われ、奴隷呪の首輪で管理、貴族の屋敷で側室という建前で監禁――幽閉されていた。

 僕は自覚していないが、公安局側からはそう見えるしそういう扱いを受けていたとして扱われているそうだ。

 貴族としての言い回しを利用しているだけのようにも感じるけれど、立場が変われば見方も変わる。

 その上世間知らずで出不精で反抗心も抱かない。

 性技の教育も一通り済んでおり非常に従順。

 僕ほどの奴隷として理想的な男のオメガはかなり珍しい。

 ヘルムート様が僕に自由で安定的な生活をさせつつ貴族らしい教養も身に着けさせ、仕事にも就かせようとしているのはそういう僕の自意識の薄さを改善する目的があるという。

 今のままでは犯罪組織の言いなり奴隷のままになりそうで、とのこと。

 ああ~~、なんか納得してしまった。

 

「でも……ヘルムート様の迷惑になるくらいならそれも仕方ないのかも……」

「なに?」

 

 ギロリ、と睨まれて、肩が小さく跳ねる。

 眼鏡をするようになって、世界がとてもよく見えるようになって、ヘルムート様の表情の差異もわかるようになった今だから恐ろしく感じる。

 怒鳴られるのなんて初めてじゃないし、怒鳴られても怖いなんて思ったことなかったのに。

 体が震えた。

 なにが悪かったのかわからないし、なんでヘルムート様が怒ったのかもわからない。

 僕の様子をジッと見てくる、ヘルムート様は険しい表情のまま視線を食事に落とす。

 視線でディレザさんへ助けを求めたが、首を横に振られてしまった。

 気まずいまま食事が進み、終わる。

 無言で食道から出ていくヘルムート様に声をかけて「申し訳ありませんでした」と頭を下げるが「あなたはなにが悪かったのかわからないのだろう?」と聞かれて素直に頷くと、首を横に振られた。

 

「少なくともあなたを迷惑だと思ったことはない。あなたの身が危険であり、私は仕事であなたを保護している。あなたの意思で仕事と家を探して出て行って生活するというのならその意思を尊重しよう。だが、そうではないのだろう?」

「はい、まあ……迷惑になるのなら、と……」

「他人ではなく自分の状況を客観的に見て、現状を把握してなにがいいのか相談しなさい。迷惑な時はそう伝える。少なくとも今はなにも迷惑に思っていない。あなたは自分のことを最優先に考えるべきだ」

「ええ、と……わかり、ました」

 

 ものすごく真剣な顔で諭された。

 そうか、怒っているのは僕のふわふわした思考。

 僕が自活するのは賛成。

 でもいくつか条件がある。

 僕の奴隷呪の首輪が外れてから――これは必須。

 そしてフェグル元伯爵が関係していた犯罪組織の検挙。

 あるいは他国に撤退させる。

 そこまでしても、僕は再び狙われかねない。

 だから“抵抗する心”――反抗心が必要。

 身を守る知識や、警戒心も。

 そう言われると僕ってだいぶ人として足りないものが多いんだな。

 そりゃあヘルムート様ももっと貴族らしい教養を身に着けなさいっていうかぁ。

 

「ともかく仕事に就くことを目的にするのなら護身術を教えておく。ディレザ、明日からカミルに最低限の護身術を教えてやれ」

「かしこまりました」

「仕事と物件はこちらで選別しておく。だが重ねて言うが、この屋敷を出て一人で暮らす前に奴隷呪の首輪を外してからだ。そして一人で暮らすための家事料理も知っておいた方がいいだろう。あなたが結婚して貴族の側室として生きていくのなら、身元の保証されている相手を紹介することもできる。だが、やはりそれも奴隷呪の首輪が外れてからだ」

「わ、わかりました」

 

 目がものすごく、怖い。

 しかし、なんにしても僕がこの邸から出られるのは奴隷呪の首輪が外れてから――。



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