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面倒くさい発情期


「んん~~~~~~……」

 

 カウフマン様のお邸の離れにお世話になるようになってから一ヶ月が過ぎた。

 昨日の夜からどうにも頭がぼーっとする。

 もしや微熱?

 微熱があるのって、なんだかあった気がするけれどなんだったかな?

 

「おはようございます、カミル様。今日はゆっくりのお目覚めですが、体調はいかがですか?」

「えっと……なんだか、ボーっとして……」

「え? お熱ですか?」

 

 エレナさんが額に手を当ててくる。

 熱。熱を出したの、ちょっと久しぶりで忘れていたかも。

 そういえば熱を出すってこんな感覚だったっけ。

 幼少期はいつも熱が出ていたけれど、大人になってからは久しく出ていなかったからなんだか変な感じ。

 

「少し熱があるみたいですね。一応発情期の準備をしていた方がいいかもしれません」

「わかりました。お水をお持ちします。起き上がらずこのままお部屋でお休みください」

「え、でも……」

「お医者様に言われていたでしょう? 発情期を薬で止めていた影響で、次の発情期は重くなる可能性があるって。命にかかわるかもしれないぐらい重いかもって! だから今日はちゃんとお休みください! 今準備しますから」

「え、え……で、でも……」

 

 本当に発情期かどうかもわからないのに、二人はサクサク準備を始める。

 まず、発情期中は男性とアルファを誘惑する発情香が出る。

 アルファを誘うためのものなので、アルファが近くにいると治まりやすい。

 逆にアルファがいないと強く匂いを出すために体力を消費する。

 また発情自体も体力と水分を消費するので、水分補給しながら約三日から一週間を過ごさねばならない。

 短くて三日、長くて一週間。

 そういう意味だと聞いた時は、確かにゾッとした。

 そんなにベッドから出られないのはしんどい。

 せっかくヒューズ・ロッセの読んだことのない作品を見つけたばかりなのに。

 まさか名探偵クロイドシリーズの他に名探偵アンバー・ロックシリーズなるものが存在したなんて。

 図書室に通っていて初めて実家にあったヒューズ・ロッセ作品って本当に一部だったのだと知った。

 

「ちなみにアンバー・ロックシリーズって、部屋に持ってきてもいいでしょうか?」

「構いませんが……本当に大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です。お願いします」

「ではお持ちしますね。十一冊全部お持ちしますか?」

「よ、よろしくお願いします」

 

 エレナさんが頬を膨らませて「しょうがないですねぇ!」といいつつ部屋から出ていく。

 ジェーンさんも部屋から出て水差しを取りに行った。

 なんだか急に周囲が慌ただしくなった気がすぎる。

 発情期か。

 実は僕がオメガとわかった時にものすごく軽い発情期の経験がある。

 本当に軽くて、でもまだ自慰も知らない頃。

 今みたいな微熱が続き、また三ヶ月後に同じ症状が出たことから母が「オメガの発情期でないか?」と思われ数日後の検診でオメガと断定されたんだった。

 そうか、発情期ってこんな感じなのか。

 こんな感じだったっけ。

 ベッドにもう一度仰向けで倒れ込み、目を閉じる。

 なんだか体も、とても怠い。

 

「はあ……はあ……はあ、あ、あれ?」

 

 気がつくと二度寝してした。

 しかも、熱が上がっている。

 上半身を起こすと、部屋が様変わりしていた。

 窓に格子がついているし、大きなテーブルに壁際には水瓶。

 果物が並べられ、大量のタオルが籠に入っておいてある。

 そして、これは……張り型……?

 色んな形の細長かったりデコボコしていたり男根の反り上がっているものだったりと、色んな形の張り型が綺麗な布の上に並べられている。

 えっっっっ……とぉ……こ、これは……。

 

「あ、起きられました? 体調はいかがですか? 食欲は? なにか食べられるのでしたら、お食事をお持ちしますが」

「食事……。いえ、食欲はないので……」

「食欲はなし、と。やはり発情期の症状ですね。まだ大丈夫そうなら、少しなにかお腹に入れておいた方がいいと思いますが」

「発情期……」

 

 初めての発情期は約二年前。

 どんな感じだったのかもよく覚えていない。

 微熱が続いているっていう記憶しかなくて、いやらしい気分になったっけ? って感じ。

 フェグル伯爵の……元旦那様の雇った性技の講師に性的なことを色々教わったけれど、いやらしい気分というのがよくわからない。

 性技の講師には性交したいという欲が、僕はかなり弱いのだと言われた。

 オメガなのに。オメガのくせに。

 そんなことまで言われたけれど、ないものはないのだから仕方ない。

 

『――というよりも、長い時間自意識を潰す教育を受けてきた影響か、子孫を残そうという本能も非常に弱い。オメガではかなり異例というか、異端というか』

 

 ああ、なんかそんなようなことを言われた気がする。

 確かに子孫んは別に残したいと思わない。

 発情期も来ないなら来なくてもいいと思う。

 だってその時間、本が読めなくなる。

 ……僕、本を読むの好きなんだな。

 今まで意識したことがなかったけれど、僕は本を読むのが好きなんだ。

 カウフマン様の言っていたことが、やっと少しだけわかった気がする。

 こんな、熱で頭がぼんやりしている中でも『読みたい』と思うのだから。

 

「面倒くさいですね、発情期……」

「息が上がっておられますね。果物なら召し上がれますか?」

「………………食べます」



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