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side ヘルムート


「被害者の身元の五割が判明しました」

「見せてくれ」

 

 差し出された資料の束に目を通す。

 フェグル伯爵家の離れ地下で見つかった死体の山。

 その身元の三割は地方の村の娘。

 誘拐されたのではと行方不明の届けが出されていた。

 五割は不明のまま。

 恐らく他国で誘拐されたり売られた女性ではないかと。

 そして残り二割は他国や自国で数年前に行方不明になった貴族の女子。

 貴族といえど金がなければ娘を売る。

 貴族の血筋ならなおのこといい金になるからだ。

 もちろんかなり少数だが。

 

「それと中に三人ほどオメガ女性がいた」

「なぜわかった?」

「首輪の痕があったので」

「――! 奴隷呪の首輪か」

「はい」

 

 他の奴隷は首輪がついたままでしたが、三人だけ首輪が外されていた。

 つまり首輪が回収されたということ。

 使われた首輪が奴隷呪の首輪だった可能性が極めて高い。

 奴隷呪の首輪は絶対に逃げられないような価値ある奴隷に着けられる。

 主にその対象は、オメガだ。

 

「死因は全員胎を内側から“なにか”が突き破って出て来ていたようだ。まあ、まず間違いなくアンバレザ教がな魔界の魔物を召喚しようとしていやがる。記録を辿ればなんの儀式をしているのかわかるかもしれんから、そのあたりはこっちで調べてみる。問題は――」

「どこまで波及しているか――か」

 

 フェグル元伯爵はまだ口を割らない。

 だが今の時点でアンバレザ教と関係しているというのはほぼ確実。

 なにしろ離れの地下にあの惨状だ。

 フェグル元伯爵と関係している貴族にもアンバレザ教関係者がいる可能性が高い。

 つまり、カミルの両親も。

 

「ふう……頭が痛いな」

「そういえば今お前のところで今フェグルの屋敷にいた男のオメガを保護しているんだったな。どうなんだ?」

「どう、とは?」

「お前にとって初めてのオメガだろう? 噂通り美人で色っぽくてうっかり抱いちまいたくなるとか、そういうのはないのか?」

「顔かたちは整っていると思うが、無気力で洗脳がまだ解けていないように見受けられる」

「洗脳?」

「いつものだ」

「ああ、あれか」

 

 奴隷呪の首輪で思考能力を低下させ、無気力に追い込んで言いなりにさせる奴隷商たちの常套手段。

 彼は意識的なのかそうでないのか、実家でも似た扱いを受けてきた。

 相当に自意識が薄くなるよう育てられている。

 表情も感情も乏しく、自分の意見もほとんど言わない。

 仕事に就いて自活することは多少理解しているようではあったが、具体的な職に就いてはよくわかっていないように見える。

 ただ、境遇を思えば無理もない。

 自分はまだ親に愛された記憶があるが、彼はそうではない様子だった。

 もっと話を聞いて、彼の自意識を育てていかなければと思う。

 そうでないと、彼がどんな人間でなにを考えているのかがわからない。

 

「しかし、貴族のオメガとして生まれたのに悲惨なもんだ。結婚の世話をするつもりはあるのか?」

「今のままでは元の木阿弥になりかねん。もっと自衛ができるようにならないと、嫁には出せないな」

「親父かよ」

「保護者だ」

 

 少なくとも今は。

 

(ただ、堪らなくなる時がある)

 

 目を伏せり、食事する時ののんびりした動き。

 話す時の唇の動きや、人形のようなぼうっとした佇まい。

 とにかく体が細く、心配になると同時に抱き締めて冷たそうな体を温めたいと、そんな考えがよぎる。

 実にばかばかしい。

 

(アルファだの、オメガだの。そのようなこと、彼はそれで振り回されてきたのだろうに)

 

 アルファではないか? はっきりとさせれば出世にも役立つだろう。

 アルファだからなんだというのか。

 優秀な人間、努力した人、それらを第三性を言い訳にするのは許せない。

 オメガに産まれたものは子を産むのが当然という風潮で、彼らの社会進出は様々な理由から阻まれている。

 ヘルムートはそれも気に入らない。

 なぜなら、母がオメガだったから。

 女性のオメガだったけれど、父の名前で推理小説を書いて出版し、それなりに人気を博してシリーズも書いていた。

 父は母の推理小説の一番のファンであり、彼女のために特別な離れを造り、執筆活動を全面的に応援したほど。

 今も世間では推理小説『名探偵アンバー・ロックシリーズ』は男性ヒューズ・ロッセが作者だと思われているが、女性だって、オメガだって推理小説を書けると実証した。

 その実例を知っているから、現状を変えようとしない世間を疎ましく思ってしまう。

 カミルのような完全に洗脳されているオメガを見ると、そんなことはないんだと教えたい。

 やりたいことをやってもいいし、何者にもなっていいのだ。

 自分の望みを持って、叶えてほしい。

 彼を通して自分の母の未来を映している気がする。

 幸せになろうとしてほしい。

 彼が自分で自分の幸せを望むなら、自分は持てるものすべて使ってでもそれを助けたい。

 そんなふうに思うほどには、彼はヘルムートの中で存在が大きくなっている。

 

「だがオメガ男性の噂はもう城の方にも回っているぞ。そのうちお前の家に求婚やら仲人の依頼が届くんじゃないか?」

「すべて断る。少なくとも本人がまだよくわかっていない。そして奴隷呪の首輪が外れないうちは絶対にダメだ」

「まあ、そりゃあそうだな。奴隷呪の首輪が外れんうちは、だな」

「ああ」



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