呪いの首輪
まだ読んでいない本もあるけれど、それらをいったん本棚に返して奴隷呪の首輪について調べることにした。
カウフマン様が言っていた奴隷の歴史。
その中で使われてきた奴隷の首輪について。
そんな本あるのかな、と思ったら――まさか、あった。
そのままその場で立ち読みをする。
奴隷の中にも階級や種類があり、特に人気なのはオメガ奴隷。
発情期が三ヶ月に一度あることが特に人気の理由。
発情期中は娼婦も逃げ出すほどに淫れ、性行為に積極的に溺れるため。
同時に妊娠の可能性も高く、後継が必要な貴族や部族の長などはオメガが入荷したら即、買い取って行ったという。
次点で女性奴隷エレナさんのように幼少期に誘拐されてそのまま性行為含めた奴隷にされた者。
社会の知識をまったく入れずに育てられ、ただただ主人に忠実、主人に依存できるよう“飼育”される。
本当に“飼育”って書いてある……。
そして十代で親に売られてくる者。
借金の質として奴隷になる者。
要するに奴隷とは人間も“物”に落ちるということ。
じわじわと理解してきて、無意識に首輪に触れた。
目次から首輪について書かれたページがないのかを確認すると、ある。
本当にあった。
奴隷の首輪は何種類かあり、ポピュラーなのは革の首輪。
次が鉄の首輪。
抵抗が激しく、鉄の首輪をつける者はだいたい手枷、足枷をつけられる。
そして奴隷呪の首輪。
呪術を用いた強力な首輪であり、この首輪を作るために人が一人、生贄として捧げられて――。
「っ……」
触れた首輪が、急に熱を帯びた気がした。
絶対に気のせいだけれど。
僕が今、身につけているこの首輪……人が一人捧げられて作られている?
材料、作り方まで書かれており、それを読むと材料は鉄と人間を一人用意。
高熱で溶かされた鉄の上に、反抗心の強い人間を三日三晩吊るして恐怖と熱による苦痛で炙り続ける。
反抗心がなくなったら忠誠を誓うか問い、応じたら呪印を背に焼き込む。
その作業も溶けた鉄の上で行い、呪印を刻んだ背中を下に向けて心臓の上にも呪印を焼印。
鉄鍋から助けるふりをして頭を鉄鍋の中に入れ溶かして殺してから全身を鍋に入れる。
そうすることで絶望と強い忠誠心、反抗心を失わせる効果を付与してこの鉄を加工した首輪をつけた奴隷を意のままに操れるようになる――らしい。
もちろん、そのあとも首輪に色々呪術をかけて行くらしいんだが。
胸がドキドキをものすごい。
変な汗が背中に流れて、自分が一年以上首に着けているものに人間が溶かされ、混ぜられている。
さすがに、それはあまりにも気持ちが悪い。
奴隷呪の首輪の効果は、主に絶対服従させる。
逃走防止効果や思考能力を低下させ、疑問や反抗心を抱かせないようにする。
特定の呪文を唱えることで言いなりにさせ、意識操作や記憶操作までできるという。
まさしく奴隷を自由にできる魔法の首輪。
フェグル伯爵は……旦那様は、僕を側室とも思っていなかったんだと、まざまざ見せつけられたような気分だ。
あの人は、いや……父も、多分母も、旦那様も、僕のことは奴隷――物としか思っていなかった。
僕は、最初から。
いや、そんなこと十代になる前に気づいていたじゃないか。
貴族の嫡男の予備として生まれてきたはずなのに体が弱く、物覚えも悪い。
予備に使えないと判断されたら、僕の存在はただの家の足手まといだ。
いらないなら“売って”しまった方が家のため。
そう判断された、ということなんだろうな。
……どうしてだろう、そう思い至っても……なにも感じない。
悲しみもガッカリもしていないことに驚いている。
誰にも期待されなくなってから、僕も誰にも期待しなくなっていったんだな。
唯一例外は姉だろうか。
あの人だけは、僕を見下すでもなく憐れむわけでもなく、体の弱い弟として接してくれたけれど。
お互い家族愛があったかというとそういう気持ちも希薄だったように思う。
もう一度本に視線を落とす。
奴隷呪の首輪の外し方は――首輪を作った呪術師、または首輪を作った職人の所有者による解呪を行わなければ外すことはできない。
つまり、フェグル伯爵にまた会って外してもらわなければいけないということ?
それなら簡単なのでは、と思ったが注釈が入っている。
奴隷商は首輪職人を囲っており、奴隷に使われる首輪のほとんどはその職人が所有者。
奴隷商人、奴隷を購入した“主人”は職人から借り受けている扱い。
首輪は譲渡ができないので、建前としてそうなる。
特に奴隷呪の首輪は、奴隷商と繋がりのある呪術師が製作者――所有者であることが多く、一度つけられた首輪を外すのは奴隷の売買に携わった奴隷商でないと難しい。
僕の場合は奴隷商を通していないので、この首輪をフェグル伯爵がどうやって入手したのかによる。
奴隷商から首輪だけ購入したのであれば、そこから辿ることもできるがそうでなければ一人一人の職人や呪術師に聞かなければならない。
なるほど、非常に厄介なんだな。
「カミル様、お茶とお菓子をお持ちしました。立って読むより座って読まれてくださいませ」
「あ、はい」




