第十三話 ストーリーブレイク
第十三話 ストーリーブレイク
本来の主人公リフリアは戦慄した。
なぜかいい人になっている悪役令嬢4人組がどこからともなく現れると、大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルはその4人の方へと興味を移しゆっくりと距離を詰めはじめたのだ。
本来ならすぐにでも逃げ出したいリフリアだったが、悪役令嬢4人組には昨晩鹿肉ステーキを恵んでもらった恩がある。リフリアは思いっきり叫んで警告を発する。
「あなたたち、逃げて!
こいつには誰も敵わないわ。
こいつはバットエンド御用達の討伐不可能対象なのよ!
すぐに逃げて」
しかし、リフリアの叫びになぜかクレアはニコリと笑い、落ち着いた様子で言った。
「大丈夫ですよ皆様。
この程度の妖魔に後れを取るような鍛え方はしていませんわ」
クレアは既に鑑定魔法で大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルのレベルが998であり、自分たち4人の誰よりも低いことを看破していた。
「知らぬとは恐ろしいものよの。
その傲慢、すぐに後悔させてやろう」
大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルはそう言うと、クレアへつかみかかる。
「みなさま、こいつがお話しした妖魔ですのよ。
逃がさないように囲ってくださいまし」
クレアは昨晩、アナベラ達にこの世界に湧く魔物の厄介バージョンである妖魔について簡単に説明し、なぜ自分たちは強くならなければならないのかを簡単に説明していた。もちろん前世の記憶などはまだ話していない。
「分かりましたわ」
アナベラ達は散会し前後左右から大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルを囲うようにポジションをとる。
「くくくっ
どこまでも舐めたマネを……
もうよい。とりあえず死ね」
大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルはクレア達の自分を舐めきった態度に業を煮やし、鋭い爪でクレアを八つ裂きにせんと斬りかかる。
「いやーー、逃げてーー」リフリアの叫びが当たりに響くのと、クレアが振り下ろされる腕を軽くつかみ取り、肩から引きちぎるのが同時だった。
悪魔特有の緑の血がちぎられた肩から噴出する。
「ぎゃーーー」大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルはあまりのことに驚愕しながら痛みに悲鳴を上げる。
「なぜだ。なぜこの俺様がこうも容易く右腕を失う……
まさか、貴様が……」
大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルの脳裏にひらめいたのは、自分の尻尾を燃やした炎のことだった。
「貴様が尻尾の敵かーーー」
激高した大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルは失われた右腕を再生するやいなや両手でつかみかかる。
が……
クレアはあっさりとその両手をつかみ取り、今度は手首の部分で握力を込めて粉砕した。
「ぎゃーーーー、痛い、痛い」
両腕を捕まれたまま泣き叫ぶ大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルに周囲の観衆は言葉もない。
特に主人公リフリアは、あの災害級の大悪魔がいとも容易くあしらわれる様に、何のことか分からない状況になっている。
そして大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルはここに至って思い知った。
理由は不明だがレベル998に至っている自分でも歯が立たない存在が目の前にいることに。となればここは戦略的撤退である。
捕まっている自分の両手首を無理やり引きちぎり、再生しながら回れ右をして真後ろへ逃げ出した。
そしてその方向には、大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルは知らないが、彼の尻尾の真の敵であるアナベラがいた。
「どけ!」大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルはアナベラへと体当たりしようとするが、アナベラは冷静だった。
「逃がしませんわよ」
そう言うとアナベラは火炎魔法を発動して右手に纏い、そのまま右フックで大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルを殴りつけた。
大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルは左頬をアナベラの炎の拳に焼かれながら、横にいたタニアの方へと飛ばされる。
そこに待ち受けていたタニアは氷魔法を拳に纏わせ、ストレートを大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルの顔面にお見舞いした。
大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルは左頬を焼かれ、鼻を陥没させながら凍らされ、タニアの反対にいたトリニアの方へ飛ばされる。
そしてトリニアは、拳に纏わせた風魔法とともに、渾身のアッパーカットを大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルの顎へ叩き込んだ。真上へ打ち上がる大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルにもはや意識はない。
「「「今ですわ、クレア様」」」
三人の言葉に頷くと、クレアは大地を蹴って飛び上がり、雷魔法を纏わせた右足で大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルの脳天へとかかと落としを喰らわせた。
ドンガラガッショーーン
あたかも本物の落雷のような音がして、大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルは地面へ墜落し、めり込み、やがて黒い煙となって消滅した。後には特大の魔石が残るのみである。
「信じられない……
あいつ、倒せたんだ……」
この乙女ゲームを前世で遊び尽くしたリフリアは訳が分からないまま呆然となるのだった。
一方そのころ、ダンジョン奥地のリスポーンポイントで大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルは復活を遂げていた。
「なんなのだ、あいつらは。
4人が4人ともこの俺様よりも強いだと……
ありえん。ありえないぞ!
こうなったらお叱りは覚悟で、邪神様に相談するしかない。
待っていろよ、くそったれども。
次こそ貴様らを恐怖のどん底に突き落としてくれる」
そう言うと大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルはダンジョン奥地から更に奥へと歩み去った。このダンジョンの創造主である邪神へと報告をするために……
「ふふふ……
邪神様のレベルは5000を超えていると聞く。
邪神様さえ動いてくださればあの小生意気な女どもなどどうとでも出来るというものよ。
ふっ、ふはははは」
大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルの独り言が静かに静寂の森へと吸い込まれて行った……
だが大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルは知らない。
彼が最強と信じている邪神ですらクレアのレベルの半分にすら届いていないことを……
そして、クレアによってレベリングされた戦士たちが次々と邪神のレベルを超えていこうとしていることを……
無知なることは幸いかな……
南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……




