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第十二話 無敵(=無謀)な人

大変遅くなりました。

休暇に入ったのでとりあえず更新します。

待っていてくれた人はありがとうございます。

新規の方は初めまして。訪れてくれてありがとうございます。、

第十二話 無敵(=無謀)な人


「おい、貴様ら!

 聞きたいことがある。

 正直に情報を提供すれば半殺しで許してやろう。

 しゃべらなければ皆殺しだ」

 大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルは鷹揚に声をかける。

 相手が情報を持っていない可能性など全く考えておらず、本当に知らない場合も皆殺しにすることにためらいはない。

 先ほどまで関係ない奴には手出ししないなどと言っていたのが嘘のようだが、彼の中では逆らった人間は無関係な人に分類されていないので、一本筋が通っていると本気で思っている。ダンジョン奥地に引きこもる大悪魔はコミュ障でもあるのだ。







「なんであんな特大の破滅フラグがこんなところにいるのよ」

 本来の乙女ゲームの主人公リフリアは悲鳴にならない叫びを内心で上げながら呟いた。


 大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィル……。数多のバッドエンドで人々を絶望に落とし、国を破壊し、世界を破滅させた存在。

 あるときは森に追放された悪役令嬢の前に現れ、哀れな女を蹂躙しなぶごろす。

 あるときはバットエンド後の王城に現れて、主人公もろとも王城をがれきに埋める。

 またあるときは、極大の火炎を世界に振りまき、大陸ごと灼熱地獄に変えてしまう。


 はっきり言って、こんな序盤で、こんな森の浅いところで巡り会ってよい存在ではないはずなのだ。

 前世のゲームでそのことを知り尽くしているリフリアは、混乱と恐怖で完全にフリーズしてしまった。


 しかし、空気を読めない者が一名、この集団にはいたのだ。そう、我らの王子殿下である。

「なんだ、変な色をしたバケモノだな。

 人語を解すようだがそんなことはどうでもよい。

 この俺様が撲殺してくれる」

 剣で斬殺するなら分かるが、撲殺すると宣言するところがこの王子のおつむのほどを物語っているが、状況はそんな悠長なことを言っているほどのんびりしてはいない。


 圧倒的強者と知らずに突撃する王子に、「やめて!」と叫ぶリフリアの声も全く届かず、側近二人は追いつけず、護衛の教師は相手から来るならまだしも、無謀に相手に突撃する王子とは距離が開く一方で全く役に立たない。


「ふはははっ

 飛んで火に入る夏の虫……

 鴨がネギ背負しょってやってくるではないか」

 大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルは余裕の表情で泰然と待ち構える。


「ふっ、俺様の力も知らずにのんびりしてやがる。

 くたばれ魔物め」

 王子は気合い一閃、大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルに斬りかかる……

 が……、

 大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルは全く動くことなく、左手の人差し指の爪一本で王子の斬撃を受け止めた。


「バカな」驚愕する王子に大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルは語りかける。

「どうした愚物よ。それだけか」

 そう言うと爪に少し魔力を込め、王子の剣を真っ二つにしてしまう。


「そ、そんな……。

 王家の秘宝が折れてしまうなどあり得ない」

 悲報、秘宝が折れる!などとふざけた言葉が頭に思い浮かぶほどリフリアは冷めていた。

 あり得ないのは相手の実力も分からず斬りかかるお前だと叫びたいリフリアだが、さすがに不敬に問われると不味いので言葉にはしない。

 最もここで王子がおくたばり遊ばせば、そんな心配も無くなるのだろうが……。


 そうこうしているうちに、剣を失った王子はあっさり大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルに捕まり、左手一本で喉輪を決められ宙づりにされている。

 大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルが少しでも力を入れれば、哀れ王子の首はポキリと行くだろう。

 この状況に取り巻きも護衛も一歩も動けなくなった。

 最も動けたとしても、大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルに敵う者などいはしないのだ。そう、今まさに落とし物をしてこちらに向かってきているあの人を除いて……






「クレア様、ハンカチを落としたのはどのあたりですの」

 アナベラの言葉にクレアはしばし考える。


「やらかしたあの地から戦略的撤退をして一息ついたところで額の冷や朝を拭ったのが私とハンカチ様の最後の記憶ですわ……」

「それなら少し戻ればすぐですわよね」とタニア。

「今の私たちなら本気で走れば10秒もかかりませんわよ」とトレニア。


「ごめんなさい皆さま。

 あのハンカチは母が誕生日の祝いにくれたものの一つですので、なくすとお仕置きが来ること必定なのですわ」

 クレアの言葉に雷帝マルガリータのお仕置きを想起しブルリと震える三人娘なのである。

「そういうことならなんとしても見つけねばなりませんわ」

「急ぎすぎると見落とすかも知れませんわね」

「ゆっくり注意しながら戻りましょう」

 三人娘からの提案に頷きながら、クレア達はキョロキョロと地面や周囲の木々を注意深く探し、来た道を戻る。

 すると、遙か前方からまがまがしい悪意の乗った低音の怒声が四人のレベルアップした耳に聞こえてきた。

「おい、貴様ら!

 聞きたいことがある。

 正直に情報を提供すれば半殺しで許してやろう。

 しゃべらなければ皆殺しだ」

 大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルの声である。


「クレア様、聞き取れましたか」アナベラが最もレベルの高いクレアに確認する。

「はい、アナベラ様。どうやらトラブルのようですわね。よろしければ様子を見に行きたいのですが」

『そして恩を売れれば将来の仲間ゲットに繋がるかも』という心の声を飲み込み、クレアはアナベラ達3人を交互に見る。


「もちろん、困っている人を助けるのは貴族の勤めですわ」

「それに今の私たちなら、大抵のトラブルには対処できると思いますの」

「私、頑張ります」

 3人の言葉に頷くとクレアは早速かけだした。

 アナベラ達もクレアに続く。

 4人はすぐにトラブルの元となっている大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルのところにたどり着いた。


「あら、バカ王子がつるされていますわ」と言ったのはそのバカ王子の婚約者であるアナベラだった。


 全力で駆けて現れた4人は、そこに居合わせた面々からするとまるで転移でもして来たように映る。もちろん大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルにも彼女らの動きは捉えきれていない。


「何者だ。貴様ら。

 この俺、大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィル様の前に突然現れるとはどういう了見だ」

 恐怖の対象である自分の前に突然現れ、自分を恐れる様子もない4人の少女に対して、大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルはなぜか強い怒りを感じ、捕まえていた王子をポイッと放り投げるとクレア達に対峙した。

 もちろん、大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルは自分の方が弱いなどとは微塵も思っていない。生意気な連中が現れたので、尋問対象をそちらに移してやろうとぐらいに軽く考えていた。

「恐怖で言葉も出ないか。ならば貴様らから情報を搾り取ってやろう」

 無謀にも大悪魔ルキフェリウスゴーマニゼリフィルは自らクレア達の方へと一歩を踏み出した。

 自らの破滅へと繋がる一歩を……


 この哀れな悪魔に救いあれ……







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