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エピローグ
人気のない大学病院の廊下を、これと言って特徴のない、白衣を着た人物が歩いている。その人物は地下の一室の前で足を止めると、ボタン式の暗証番号を入力して部屋へ入った。中には司法解剖に回された遺体が安置される、引き出し式のロッカーが並んでいる。
その人物は、吉江公寿と書かれたラベルがあるロッカーを引き出すと、中に横たわる遺体をじっと見つめた。その胸には大きな傷と、解剖後の縫合の跡がある。白衣の人物はおもむろに、その傷口へ手を差し込んだ。手はまるで溶けこむみたいに、遺体の奥へと沈んでいく。
「邪魔がはいったせいか、さほど成長しなかったか……」
小さなつぶやきと共に、手が遺体から引き上げられた。たまに明滅する蛍光灯の明りの下、手がゆっくりと開かれる。手のひらの上には黒い塊があり、小さく震えつつ、真っ黒な胎児へと姿を変えていく。
白衣の人物は、それを口元へ持っていくと、「ゴクリ」と音を立てながら、一気に飲み込んだ。そして再び遺体へと視線を向ける。
「あの娘、中々にするどい。もしかしたら、大王より手強いかもしれないな」
そう誰に語るでなく告げると、引き出しを元へ戻し、部屋の扉を開ける。そして扉の向こう、先ほどの廊下とは違う、暗闇の中へと姿を消した。




