096 ボルテージ
しかし、この攻撃さえも今のリオンの装甲の前では歯が立たない。
「残念だが、貴様には打つ手がないようだ」
リオンはゆっくりと近づいてきた。これは自分の防御力に自信がある証拠だ。
「なんならもっと撃っても構わないぞ」
ヴォルフガングは、言われた通りに引き金を引いた。すると、リオンの右腕が魔法剣と共に吹き飛んだ。
「ば、馬鹿な」
焦るリオンを後目にして、ヴォルフガングは何かが吹っ切れたかのように腹を抱えて笑い出す。
「ハハハ、お前たちはお利口だな」
まるで、ペットを褒めるように優しく闡帝銃を撫でるヴォルフガング。
「ロドリゲス。これは一体どういう事だ?」
右腕を吹き飛ばされても、リオンはさほど痛みを感じていなかった。恢飢は多少、体に変化が起きても痛みを感じないという構造だ。
「魔法収容力が上がったのさ」
「ボルテージ?」
意味が分からず、リオンは聞き返した。
「コンサートでも、客のボルテージが上がるほど、歌ってる奴のボルテージも同様に上がっていくだろ」
「まさか」
「そうだ。俺の闡帝銃は俺の気分によって攻撃力が決定する。だから、ボルテージが上がったと言ったのさ」
とんでもない能力だとリオンは感じていた。ヴォルフガングはまだ冷静を保てる人格だが、もしも常時ハイテンションな人物が闡帝銃を持てば、それこそ天下を統一するほど強力な武器になるのではと悟った。
「長々とお喋りに付き合ってくれて有難う。スロースターターの俺が、久しぶりに闡帝銃を本気で扱える」
「今までの会話は、全て時間稼ぎだったと言う事か」
「その通り。お前がお喋りで本当よかったぜ」
「褒め言葉として受け取っておこう」
「皮肉として言ったつもりだが」
「そうか」
瞬間、リオンは拳を振りかぶって駆けた。だが、あっけなく、ヴォルフガングの闡帝銃に腕ごと吹き飛ばされた。これで、両手を失ったリオン。
「三途の川を渡るために、両足は残してやろう」
「くそ」
相手が余力を残したまま、屠られるのはリオンにとって屈辱的だった。
「最後に聞くが、風華を誘拐したのはお前か?」
「違う。私ではない」
「では、誰だ?」
「貴様がよく知っている人物だ」
リオンは肩で息をしながらそう言った。
「成程な。やはり、あいつか」
ヴォルフガングの脳裏には、ある人物の姿が浮かんでいた。そして、最後のピースが埋まったように、満足感と達成感そして、新たな目標を得て、笑うヴォルフガング。
「後は、そこの御嬢さんに聞くがいい。私よりずっと物事を知っている」
両手がない故に、顎でしゃくったリオン。
「よーし分かった」
ヴォルフガングはリオンの頭に銃口を向けた。
「何か言い残したい事はあるか」
「貴様の本気を引き出せてよかった」
意味深にほほ笑むリオン。
「何?」
「私が死ねば、敵との戦闘を動画としてルリ様のパソコンに転送される仕組みだ」
声を荒くして、こう続けるリオン。
「貴様は私如きに手の内を晒しすぎた! ルリ様がきっと闡帝銃の対抗策を見出すだろう」
「それがどうした」
ヴォルフガングの素っ気ない一言が、リオンの心を貫いた。
「それがどうしただと、何故貴様はそこまで冷静でいられるのだ!」
リオンの声が荒くなり、獰猛な恢飢のそれと同じになっていく。
「何か勘違いしているようだな」
「勘違い?」
「俺は試していたのさ。合成恢飢を破鏡レベルで倒せるかどうか」
ここで、何かを感づいた様に目を見開いたリオン。
「まさか……」
「お前は手加減している俺を本気を出した俺だと勘違いしていた」
「そんな筈は」
「せめて、次に控えている大物の礎になってくれ」
ヴォルフガングは引き金を引いた。魔法弾がリオンの脳天を撃ち抜くと、まもなくリオンの屍はカードになった。




