084 異常欲
神代は香久弥を背負って香久弥の学校まで駆け抜けていた。
「玖雅さん……大丈夫でしょうか?」
小さな手で必死に神代の背中にしがみついている香久弥が言った。
「大丈夫よ。アイツは常人を越えた域で頑丈なんだから、心配する必要無いわ」
あくまで、聖人の勝利を信じている神代だ。
「本当ですか?」
「マジマジ。私が保証するわ」
「その確信は何処から?」
「アイツは私の予測以上に進化し続けている。だから、きっと勝てる」
「あ、あれ」
「え」
香久弥が上空を指差した。神代は制止して、香久弥が指差す方向を見ると、制服を着た褐色肌の女子高校生が、電柱に座ってスマートフォンを弄っている。
「ちょっとー!」
神代はその女子高生に呼び掛けた。女子高生は怠そうにスマートフォンをポケットの中に入れ、神代の顔を睨みつけた。
「なーに? チョー驚愕の顔してるじゃん」
「電柱に座って危ないでしょ。感電したらどうすんのよ!」
「ぶっちゃけ、アタシは感電しないしー。あんたこそ身の安全に気をつけなよ」
「はあ?」
「痛みを味わないと分かんないの? チョーめんどくさい……」
そう言うと、女子高生がポケットの中から巨大な大剣を取り出した。その大剣を両手で持ち上げた女子高生は、神代目掛けて大剣を振り下ろした。
「ちょ!」
寸前で躱した神代。対象を失った大剣は道路を陥没させる。
「いっがーーい。身軽なんだね」
陥没した道路から大剣を抜き取った女子高生。
「あんた、私に恨みでもあるの?」
「別に個人的な恨みは無いけど、あんたには死んでもらうから」
自分の身長はあろう大剣を片手で振り回し始めた女子高生。細い身体で、とんでもない腕力だ。
「もしかして、さっきの木偶の坊の仲間?」
「大正解。よく分かったね偉いね」
やたら上から目線の言い方に腹を立てる神代。
「アンタ……名前は?」
「人に名前を聞くときはさァー。まず、自分から名乗るモンでしょ。マジ非常識」
「神代月波」
「アタシはね。ソフィア・ボレゲーロ。以後、よろしくって感じ?」
神代は香久弥が背中で震えているのを感じて、香久弥を下に降ろした。
「とにかく逃げて」
「でも」
「心配しないで。後で追いつくから」
香久弥は黙って頷き、ソフィアの横を走って通過した。
「…………」
逃げる香久弥には目も触れず、一直線に神代を睨みつけているソフィア。
「香久弥ちゃんには攻撃しないのね」
「アタシの目的はアンタを殺す事だからさ。ガキんちょには興味ナッシング」
ソフィアの魔法収容力が上昇している。神代は戦いが始まると予測し、武器を取り出した。
「破鏡」
神代は長槍を両手に持った。
「うわっ……細っそーい」
「アンタの剣がデカすぎるのよ」
そう言い返した神代だった。




