083 完璧主義
一方その頃、DDD・ラストラッシュはサージカルス・クライノート碩大区支部の屋上で、ゴルフを嗜んでいた。
美しいフォームから弾き飛んだ白球は一発でカップの中に入った。そう、ホールインワンだ。
「今日は飛びますねー」
日射しが強く、キャップとサングラスを被っているラストラッシュがそう言った。
「社長。おめでとうございます」
ラストラッシュの秘書兼キャディのアリシアが手を叩いて称賛した。アリシアはサージカルス・クライノート社に勤めている女性社員の中で、ズバ抜けて能力が高く、さらに美貌を兼ね備えているとして、去年ラストラッシュが自らの秘書に抜擢した。
「いえ、0.0000374mmのズレがありました」
たとえホールインワンを達成しても、完璧なホールインワンでなければ、ラストラッシュは納得しない。
「誤差でしょう」
「その誤差で会社全体のバランスが崩壊する事もあるのですよ。覚えておきなさい」
「かしこまりました」
「しかし、平和ですねー」
「社長は平和がお嫌いだと聞きしましたが、本当ですか?」
「当たり前ですよ。平和からは何も生まれません。この世界を進化させてきたのは、常に人々の争いから生まれた競争心です」
「成程、勉強になります」
ふと、アリシアはラストラッシュが着ている服に目を向けた。所謂ゴルフ用の服ではなく、私服を着ていた。
水玉模様のTシャツに赤色に染まったスポーツ用のショートパンツだ。変わった趣向だとアリシアは思いつつも、ラストラッシュにファッションの事を聞いてみた。
「今日の私服は一段と個性的ですね」
「お洒落でしょう?」
「そう…………ですね」
言葉に詰まったアリシアだった。
「トップに立つ者は企業利益だけではなく、お洒落にも気を付けないといけませんからね」
「確かにそれは納得します。新入社員よりダサい格好をした社長なんて、見るに耐えません」
「だから私は講演会でも言っています。企業家を目指す者は、なによりもファッションセンスを鍛えなさいと」
「的を得ております」
といいつも、内心では「この人は何を言っているんだ」と思っているアリシア。
「人間の心理では、身形が穢れた者の元で働こうとは思いません。奇抜でもいいから個性が出ている社長に対してこそ、社員達は尊敬を抱くのですよ」
「それで、社長はどのようなテーマで私服をお選びになるのですか?」
「その日の気分によって私服選びは変わります。今日は優雅なセレブのお休日と言っておきましょうかね」
そう言いながら、ラストラッシュは一番ウッドを振った。白球は引き寄せられる様にキャディの中に入る。また、ホールインワンだ。
「今度は完璧ですか?」
アリシアが上目使いで聞いた。
「完璧です。一寸の狂いもありませんよ」
必然のホールインワンに微笑むラストラッシュだった。




