082 結
押し返される。攻撃を与える度に威力を増す獅剛拳が、聖人のモーニングスターに押されているのだ。
「なんだ、それは?」
ガルシアは急激に上昇した聖人の魔法収容力に絶望を感じながら問うた。
「常夜叉鎚矛。精神世界でこいつの能力を開化させたのさ」
銀色のモーニングスターが、雀羅化した事により、黒と赤のおぞましい色に変貌していた。
「それだけで、この魔法収容力だと」
「出るんだなーそれが」
「ありえねぇ。嫌、認めねぇぞ」
「これこそが、人間の可能性だ。てめぇら恢飢には一生理解出来ないだろうな」
「しゃらくせぇ!」
七発目の獅剛拳を聖人に浴びせた。「確実に当たった」とガルシアは感触を感じていたが、奇しくも拳は聖人の常夜叉鎚矛の棘に突き刺さっていた。
「棘ダァ?」
雀羅化する前には、ここまで鋭い棘は無かった。雀羅化する事により、鋭利な棘が伸びていたのだ。
「こんなもの」
拳を棘から抜き取ったガルシア。すると、激痛を感じて右腕を押さえた。
「この痛みは……なんだ」
「吸収だよ」
「吸収だと?」
「そうだ。常夜叉鎚矛の攻撃対象になった者は、微量づつ魔法収容力を吸収され、棘に身体の部位が突き刺さる度に魔法収容力を著しく吸収される」
「まさか」
ガルシアは直感した。聖人の魔法収容力が理解の境界線を越えて上昇していったのは死地を乗り越えた事とは別に、自らの魔法収容力を吸収され、敵に力を与えてしまったという事を。
屈辱を感じたガルシアは歯ぎしりをした。
「あ……ありえない」
魔法収容力を吸収されるという事実は、ガルシアの能力を塞ぎ止めされるという事実に繋がる。
攻撃を与える度に威力を強くする獅剛拳もまた、相手の魔法収容力を吸収する事で、威力を上昇させていた。
「己等と同じ能力かよ。八方塞がりじゃねぇか」
「違うな。てめぇの能力より一段階上を往くぜ」
「なに?」
「伸びろ。青天井の高さまで!」
聖人がそう言うと、常夜叉鎚矛が天高く伸びた。
片手武器のリーチの短さを補ったのだ。
「なんじゃこりゃあ」
ガルシアは首の痛みを感じていた。それぐらい、聖人の常夜叉鎚矛は伸びている。
「終わりだ」
そして、鉄槌が降ろされた。ガルシアの視界は一瞬にして暗くなった。
「!」
腐工場で待機していたリオンは、弟の魔法収容力が途絶えた事を感じた。
「死んだの?」
リオンの妹が血相を抱えている。この状況では大好きなスマートフォンのアプリも投げださざるおえない。
「我々恢飢は魔法収容力を糧に生きている。その灯火が消えた今、生命活動を停止したと考えるのが最適だろう」
「あいつが死ぬなんて」
「奴は所詮、情弱な魂を寄せ集めて創られた出来損ないだ。我々とはレベルが違う」
「そうだけど」
「次はお前の番だ。しくじるなよ」
そう、リオンは冷静に言い放った。




