076 恢飢三兄弟
廃工場にて三人の合成恢飢が蹂躙していた。
「てやんでい、なんでこんな辺鄙な場所で待ち続けなきゃならないんだ!」
熊の様な容姿で全身毛むくじゃらの大男が唸っていた。
「ちょっとオジサン黙ってくれない? 集中出来ないんだけど」
その唸りに答えたのは、スマートフォンの最新アプリで遊んでいる女だった。彼女は高校の制服こそ着ているが、何処か大人の女性っぽい色気を醸し出している。
「誰がオジサンだ。己等は生まれも育ちも此処にいる全員と一緒だぞ!」
大男は辺りを見回した。この場には容姿端麗な好青年とギャル風の女性などの合成恢飢達が三人居るのだが、大男だけは老けている。
「だったら融合前の恢飢が歳喰ってたんじゃないの? その点、私はぴちぴちのギャルっぽくて良かったけど」
「なんだと。お前だって化粧が濃いコスプレ女みたいな顔じゃねぇか」
「コスプレ女って言わないでくれる? 私は神聖なる女子高校生よ」
「よく言うぜ。散々男を食ってきたギャル顔の癖に」
「はい、オッサン特有の偏見が出ましたー。十点減点でーす」
「静かにせんか」
二人の終わらない口喧嘩に割って入ったのは、金髪ロンゲのバンド系の男だった。
「だってリオン兄ちゃんさ。此処にいる末っ子のオッサンが私の邪魔をしてくるんですけど?」
バンド系の男はリオンという名前だった。合成恢飢は生まれた順で階級が決まる。長男が一番階級が上位で、末っ子は階級が一番下だ。
「俺達にとっては主の命令が絶対だ。よって、主から命令が降りるまでは、待機だ」
「っち、つまんねぇぜ……」
「私は此処でゲームしている方が楽しくて好きだけどね」
「己等はよ。一刻も早くこの豪腕で、人間共を捻り潰したいんだよ」
丸太の様な腕を見せつけている大男。
「はいはい。筋肉自慢は後にしてね」
「それに比べて、お前は随分と細い手をしてるな」
「だからどうしたのよ」
「お前さ、実は己等の筋肉に妬いてるんだろう。そうなんだろう?」
「……………………」
女は頬杖をついて、何も言わずスマートフォンの画面を見つめていた。
「ツレねぇな。もういいぜ」
大男は溜め息をついて、その場に座り込み、両手両足を地面に叩きつける。それによって地響きが起きているものの、他の合成恢飢達は顔色一つ変えていない……その時だ。
「どうも。こんにちは」
居酒屋の暖簾をくぐるかの様に、緩い挨拶をしたのは威吹だった。
威吹は合成恢飢の様子を見るために、腐工場に足を運んでいた。
「主よ」
誰よりも先に威吹の声に答えたのはリオンだ。
「暇そうな君達に朗報だ。この男と女を消してくれないか?」
威吹は、聖人と神代が写っている写真を合成恢飢達に見せている。
「いいぜ。己等に任せな」
大男が待ってましたとばかりに重い腰を上げ、1m以上の身長差で威吹を見下ろした。
「君の名前は?」
「ガルシア・ボレゲーロ」
大男はそう名乗ったのだ。




