075 シフトキー
「研究所を辞めたのかい?」
「うん。辞めちゃった」
ルリはハプスブルグ研究所の所長だったのだ。ルリこそが、研究所の合成恢飢を持ち出した張本人である。
「まあ……仕方ないね」
「仕方ないー仕方ないー」
ルリが首を横に振りながら、リズミカルに歌い始めた。
「御機嫌で何より」
「ハハハ……あ、威吹にお土産があるよ」
「お土産?」
「ルリが開発した恢飢だヨン」
「え、恢飢って?」
「大丈夫、大丈夫。飼い主の言う事をよく聞く、お利口さんだから!」
「ふう……」
威吹は肩の力を抜いたのだ。
「で、その恢飢は何処にいるの?」
「外で待ってる」
「外!?」
「うん。外だよ」
「外はちょっとマズイんじゃ……」
「平気だよ。見てみる?」
「そうだね」
そう言って、二人は屋敷の外に出たのであった。そして、そこに合成恢飢達は居たのだ。
「何だこれは?」
威吹は驚愕の表情を浮かべた。そこに居たのは人間とほぼ変わらない形の恢飢達。
「スゴいでしょ。簡単に説明すると、恢飢と恢飢を融合させたら人間になっちゃった!」
所々のパーツは恢飢だったが、手袋や帽子などで隠せば、人間と見間違う程だ。
「これは……計画に使えそうだ」
「喜んでくれた?」
「それはもう喜びを感じている最中だよ。ありがとうね」
威吹はルリの頭を撫でてお礼を言った。
「主よ」
一匹の合成恢飢が、威吹に話し掛けた。パッと見は金髪ロン毛の兄ちゃんに見えるが、赤い目をしている。
「私共に何なりとご命令を」
「そうだね。まずは」
「まずは?」
「この先の腐工場に行ってもらおうか」
威吹は、屋敷の周りにたむろされると近所に怪しまれるのだと遠回しに言ったつもりだった。
「了解致しました」
三人の合成恢飢が声を揃えた。そして、腐工場に向かって空高く飛び出したのだ。
「彼らは、きっと仕事をしてくれそうだ」
満足気に頷いた威吹であった。




