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13代目の破壊神  作者: 千路文也
1st #1 生徒会長誘拐事件
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006  吾輩は猫である


ここは公園だ。周りにはブランコなどの遊具が設置されていて、障害物になっている事を頭に入れて戦わなければならない。


私は辺りを見回して敵が何処にいるか探した。さっきのドンヨリとした空気から察するに、必ず公園の近くにいるはずだ。


奇襲攻撃に備えて、全方向を隈無く散策する必要があり、後ろを取られないか注意する。極度の緊張から口の中が渇いてきた。


「こっちだ」


声がする方向に振り返ると、灰色の太った猫が滑り台の上に座って、私を見下ろしていた。奴の尻尾は九つに割れている……間違いない、私の獲物だ。


「夫婦漫才は済んだかな?」


灰色の猫が喋りかけてきた。動物型の恢飢(かいき)が意思を持って喋るのは非常に珍しい光景である。


「誰が夫婦よ、あんなへっぴり腰は私のタイプじゃないわ。私のタイプはね、ダンディーなおじ様よ」


律儀に答える私。


「吾輩が見た限りは、とても相性が良いように見えたのだがな」


身体をクルリと曲げて毛ずくろいを始める猫。身体が大きすぎて全く舌が届いていない部分がある。


「にしても、土管に隠れてた私達に気づいてたなら、どうして攻撃しなかったのよ?」


ふんっと鼻息を鳴らす猫。毛ずくろいを止めて、黄色の目で私を見た。


「吾輩はいついかなる時も1対1の戦いを望むのであるよ」


「アンタね、下級恢飢のクセにかっこつけすぎ」


「思った事を口にしてるだけだ~よ」


すると、奴の九つに割れた尻尾から黒い光が渦巻いた。奴は先程の技を使う気だ。


純琴術律(メクサラ)


灰色の猫がそう言うと、闇エネルギーが尻尾から発射された。私は地面に手をついて倒立回転で攻撃を避ける。


やがて、全ての闇エネルギーは目標を外れて地面や木をえぐり倒した。破壊力は凄まじく、この攻撃を受ければひとたまりもないだろう……。


「御嬢さん(ドゥルーク)見事だ。実に華麗な動きであった」


「それって皮肉?」


「いいや……紳士たる者、たとえ相手が敵があろうと褒め讃えるのが礼儀なのだよ」


またもや尻尾から黒い光が渦巻いた。


「無駄よ。また避けてやるわ」


ハッタリでは無い。奴の技は破壊力がある変わりに動きが鈍く、簡単にかわせる。


「吾輩は猫である。だが、猫も学習するのさ」


見ると、9つの闇エネルギーが収束されて、1つの巨大な黒い球体に変化した。猫が乗っている滑り台の大きさは軽くある。


「どうだ? かなりの大きさだろう。これならドゥルークでも避けられまい」


猫が口を開けてニンマリと笑った。


「純琴術律・(メクサラ・ヴェーガ)


巨大な球体が唸りをあげて放出された。奴が言った通り、咄嗟に避けられるレベルでは無い。


「さよなら、ドゥルーク」


「それが……どうしたってのよ」


「ん?」


「来て! リリーヤ」


空から人間の大きさはあろう白い鳥がバサバサと羽ばたき、私の目の前に降りてきた。鳥は孔雀のように羽を広げて、胸で黒い球体を受け止める。


「ドゥルークの使い魔か?」


「そうよ、名前はリリーヤ。胸に鏡があるの」


リリーヤは敵の攻撃を鏡に受けて吸収する事と、吸収した攻撃を跳ね返す事も可能だ。


「さよなら、猫さん」


鏡から浄化された光のエネルギーが現れた。


「純琴術律・(メクサラ・フィン)


光のエネルギーが灰色の猫を襲う。


「……美しい」


猫は攻撃を受けた瞬間につぶやいて、そのまま滑り台から弾き跳ばされた。





◇◇◇◇◇◇





砂場に叩きつけられた猫は、小刻みに震えながらゼエゼエとだらしなく息切れをしていた。


立場は逆転して、今は私がこのボロ雑巾になった猫を上から見下ろしている。


「殺せ、ドゥルーク」


見るも無惨な猫は、もうまもなく黄泉の世界へ旅立とうしていた。


「いいえ殺さないわ」


「それでは、どうする気だ?」


「アンタを生きたまま捕らえて売り飛ばすのよ」


私がそう言うと、ハハハと腹から声を出して笑い始める猫。


「顔に似合わず強情なドゥルークじゃないか」


「喋る動物型の恢飢は珍しいもの。きっっと、狩るより捕らえた方が高値の賞金が出るわ!」


お札の山を想像するだけで、興奮してきた。私はさっさと手と手を重ねて魔法詠唱を唱える。



【拡散し、燐火する呪縛の黒錠よ。飢え狂う暴れ牙で、君子の魂を喰らえ。――歪呪十字架(ワイズクロス)



空から漆黒の十字架が降りかかり、猫に襲いかかった。猫の周りには十字架が突き刺さって、身動きがとれない状態だ。


「さぁ、いくわよ」


胸ポケットから何も書かれていない1枚のカードを取り出した。このカードは恢飢を封印する時に使用し、封印した恢飢の絵柄がカードに浮かび上がる仕組みになっている。


カードを猫に向けて掲げると、風が吹いてブラックホールのように対象を吸い込む。余りの強風に目を開ける事すらままならず、木々が枝を振り回してザワザワと音をたてる程だ。


間もなくして風が止み、目を開けた。――やった捕まえた。と、感激したのも束の間、土煙が舞う中で猫の影がくっきりと見えた。しかも先程使用したカードの風で、歪呪十字架が吹き飛ばされている。


「どうしたドゥルーク? 吾輩はまだここに居るぞ」


萎れていた猫が、4本の足で立ち上がった。


「……仕方ないわね」


私は重要な事に感づき、土管に隠れている男を引っ張り出した。




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