065 今日の思い出は明日の思い出
山彦寺の頂上に到着した二人は眼前の光景に唖然とした。威吹の周りには恢飢を退治した痕とも言えるカードが無数に散らばっていたのだ。
二人の存在を察知した威吹は一回転して振り返り、二人と目を合わせた。
「やあ、初めまして。お二人さん……」
何気に初対面だった。神代は何から話そうかと戸惑っていると、聖人が一歩前に出た。
「ちょっと、聞きたい事があるんだけどよ」
髪を掻きながら威吹に近づいていく聖人。神代は「待って」と声をかけたが、聖人は耳を貸そうともしなかった。
「どうしたの?」
「生徒会長を拐ったのは、てめぇか」
聖人は眉毛を吊り上げて怒っていた。
「単刀直入だね。そういうの嫌いじゃないよ」
「さっさと答えな。今日の俺は虫の居所が悪いんだ」
「……そうだよ。霧登風華を誘拐したのは僕さ」
「そうか」
「あれ、驚かないの?」
「それはこっちの台詞だ。何故、俺達がお前を疑ったのか。お前が本当の犯人なら、もっと驚いた表情をみせるんじゃねぇか」
それは最もだ。という感じで威吹は小さく頷いた。
「だったら、君の言葉を借りるとするよ。何故、僕を疑ったのかお聞かせ願える?」
「一致したのよ」
ポケットから一枚の紙を取り出した神代。
「今回の身代金額と、あなたのお父さんの年収が一致したのよ」
紙の正体は今朝二人が見ていたサイトを印刷した物だった。
「それだけでは充分と言えないよね。他にも疑いのネタはあるんでしょ?」
「そうよ。零界堂家は窮地に立たされている……あれだけの屋敷を維持するためには相当なお金が必要なはず」
「続けて」
「同じ四大祓魔師として格差を感じたあなたは、身勝手な社会への復讐心で風華さんを誘拐して、身代金を要求した……と私達は考えているわ」
神代の確信を突いた答えにも動揺の顔を見せない威吹だった。
「それで、僕をどうする気だい?」
「警察に通報するわ」
「よく考えてごらんよ。警察がそんな話を真に受けると思うかい? 証拠不十分で相手にもしないさ」
「証拠?」
「そう。君達の推理は、あくまで推測に過ぎない。断固とした証拠が足りないのさ」
「てめぇ。今自分で自白したじゃねぇか」
聖人が威吹に歩み寄った。神代は、いつにもまして行動的な聖人に少し違和感を覚えた。
「僕が口にしている言葉には確証なんて何も無いのさ。僕が嘘をついてるか、本当の事を言っているのか、それを判断する手段はあるのかい?」
「…………」
「僕を犯人に仕立てあげたいのなら、証拠を持ってくる事だね」
威吹はそう言って、階段を下りた。
「もう完敗よ」
神代は大きな溜め息をついた。
「ああ。半分は意味不明だったが、証拠が無いって所には共感せざるおえないな」
「証拠ね」
「必要なのは証拠だ」
神代と聖人に探偵の火が灯った。
「それにしても、今日は積極的だったわね」
「アイツの喋りを聞いてたら、腹の虫が収まらなくて……これがさぁ」
聖人は転がっていた空き缶を力いっぱいに蹴り上げた。




