064 圧倒的な一撃
山彦寺の奥深くに、異常なる数値の魔法収容力を全身から流出させているエクソシストが居た。彼は右手に刀を持ち、鋭い精神の刃を研ぎ澄ましていた。
彼の名前は零界堂威吹。零界堂家の百二十六代目当主だ。威吹は賞金額ランキング一位の恢飢を退治しに、この山彦寺まで足を運んでいた。
(全く以て、理不尽な光景だ……)
まさしく、威吹の眼前に広がる光景は理不尽の極まりであった。
六十七の巨大海月が威吹の周りを浮遊していた。これが女の子ならば理想的な状態だったかも知れないが、実際は凶暴な恢飢の群れ。人によっては死を覚悟する者もいるはず。
しかし、威吹は何も感じていなかった。憎悪、絶望、悲観、意気消沈……常人ならば、その場で発狂しよう感覚に襲われる。だが、威吹は何も感じないのだ。
威吹は瞑想していた。この状況でだ。
そして、目を見開いた。口もだ。
「数で囲み、僕を潰そうとする考え方は聡明な軍師らしくて好きだよ。でもね、僕を相手にその戦術は大きな間違いだと気付けない程、愚かなのかな? 恢飢って奴は」
魔法収容力をさらに強大にした威吹は、魔法収容力を青いオーラに変換した。例えるなら、目に見える威圧感だ。
驚異を感じた分身大海月は威吹の身体を触手で巻きつけ、身動きを封じようとした。
「効かないよ」
具現化された魔法収容力をバリアとして活用し、襲い来る触手を弾き飛ばした威吹。分身大海月達は一歩下がり、陣形を整え直した。
「ほう……」
六十七の触手の先端から、滅却魔法と思しきエネルギーが収束されていく。そう、海月達は滅却魔法の一斉射撃で威吹を消し飛ばそうとしている。
分身大海月は、まだ勝てる手段があると思い込んでいるのだ。
威吹は笑みを浮かべて、右手の刀に力を入れた。
「来なよ、その過信ごと斬って捨てるから」
触手から滅却魔法が発射された。と、同時に刀を振った威吹。
「獄門刀・一閃」
放たれた剣からは竜巻の如き剣風が海月を巻き込んだ。
「何だぁ!?」
頂上に聳える山彦寺に向かっていた聖人と神代は、地面の揺れに衝撃を受けた。
「っく」
立っていられない。二人は直ぐに地面へと倒れた。
「地震か?」
聖人は近辺に木にしがみついた。
「違う……あれを見て」
頂上を指差した神代。頂上からは雲の様な煙が噴き出していた。
「神代、急ぐぞ。威吹の身が危ない」
「分かったわ」
そう感じとった二人は、立ち上がって、頂上まで走った。




