061 妹の明確な意見
「ご苦労様」
身代金要求用のビデオを撮り終えた威吹は、再び風華を部屋の中に閉じ込めた。
「じいや。結界レベルは」
「分かっております。レベルⅦまで引き上げておけば、よろしいのじゃろう?」
「いいね。物分かりのいい人は好きだよ」
威吹は次に、その足で晩餐室に向かった。朝ご飯を食べようと思ったのである。
部屋を開けた威吹。目に飛び込んできたのは妹の姿だった。白い肌と腰まで伸びた黒髪が特徴である。
「やあ、香久弥。おはよう」
香久弥。それが彼女の名前だった。香久弥は何処か浮かない顔をしている。
「御兄様……」
何か、もの言いたげな様子の香久弥だ。
「どうしたの? せっかくの朝食が冷えてしまうよ」
テーブルには香久弥の分の朝食が置かれているのだが、香久弥は口をつけていないのだ。
「こんな事……本当に宜しいのでしょうか?」
「確かに風華ちゃんには悪いけど、零界堂家の再建のためだしね。少しの間だけでも、チェスの駒になってもらわないと」
威吹は香久弥の横に座って、自分の食事が用意されるのを待った。
「御父様が聞いたら、どう思うのでしょう」
「分からないなあ。この計画が成功すれば、零界堂家の破産を防げる訳だし……結果オーライって事で許してくれるんじゃないの?」
小さく笑った威吹はそう答えた。
「本当に許してくれると思いますか?」
威吹は急に立ち上がって、後ろから香久弥の両肩を優しく叩いた。
「香久弥は何も悪い事をしていないんだから、罪悪感を感じる必要は無いんだよ」
「いいえ、私と御兄様は一心同体でございます。だから、御兄様の責任は私の責任でもあります」
「香久弥には叶わないな……」
そう言って、もう一度座り直した威吹。
「あの」
「なんだい?」
「お金をきちんと戴いたら、風華さんを家に帰してあげますよね?」
香久弥は心配そうな目で威吹を見つめた。
「勿論だよ。約束は守るさ」
威吹が少し口角を上げて笑ったのを香久弥は見逃さなかった。
「それは……安心しました」
しかし、香久弥はそれ以上確信を突く質問はしなかった。もし最悪の返答が帰ってきたら、今まで信じてきた物が崩壊してしまうかも知れないと香久弥は思ったのだ。
「あ、やっと来た」
結界を張り終えたじいやが、威吹の朝食を運んで来たのだ。
「おりがとう、じいや。いただきます」
お礼を言った後、威吹は朝食に箸をつけた。朝食はご飯に味噌汁や鯖の味噌煮などであり、四大祓魔師としての権力が薄れていると威吹は内心感づきながら、ご飯を口を運んだ。
「御兄様。今日はどちらに?」
「ちょっとしたお金稼ぎに行ってくるよ」
「学校は休まれるのですか?」
「んー。仕方ないけどね」
威吹は喋りながらも、とても早いスピードでご飯を食べ続けた。
「ごちそうさま。じゃあ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃいませ」
威吹は晩餐室を出て玄関に移動。靴を履いて屋敷から出ていった。恢飢退治の武器を手に持って。




