056 魔法の食物連鎖
噴火、絶対零度、大嵐。例えるとキリは無いが、ラファエル=ランドクイストの魔法は自然災害に匹敵する破壊力だった。
地面は当たり前の様に割れ、空から雷鳴が轟く。ラストラッシュは逃げる動作で精一杯だ。
「素晴らしい」
ラストラッシュはこの状況に歓喜していた。
頭脳明晰、疾風怒涛、完全無欠。それを体現してきた少年は常に敵無しだった。裕福な家庭に生まれたラストラッシュは13歳で殺人を犯し、未成年監獄に入れられる。
それでも満足しなかったラストラッシュは監獄の警備員を順序良く抹殺し、仲間と共に脱獄。
強者を求めてモードゥ街にやって来たが、少年の渇きを潤す人間は居なかった。残忍な殺人者だろうが優秀な暗殺者が相手だろうと全て八つ裂きにしたのだ。
やがて、魔法の食物連鎖の頂天に君臨した少年はモードゥ街を実質的に支配。
そんな『闘いの天才』と言えるラストラッシュが防戦一方なのだ。自分より何百も老いぼれた人間に為す術も無い。
「これが……恐怖ッ!」
初めての恐怖は蜜の味。恐怖こそが自分をより高いレベルに進化させる鍵だと信じていたラストラッシュ。
正解だったのだ。目の前の恐怖を乗り越える事で、ラストラッシュはさらに強くなる。
「フフフ」
笑いが止まらなかった。超越者を目指すための道が開かれたのだ。
次第にラストラッシュの封印されていた闘争本能が蘇り始めた。鉤爪が……前に出る。
それでも、ラファエルには届かない。「確実に切り裂いた」そう感触するはずの一撃が躱されたのだ。
「!?」
「終いだ」
ラファエルの拳が胸に直撃し、垂直落下。とたんに地面を這うラストラッシュ。
「今の……技は……何ですか?」
「瞬間転移を応用した回避運動だ。モードゥ街では習わなかっただろう」
「そう……ですね」
「魔法学校なら強力な魔法を教える先生がいる。どうだ、儂と一緒に来ないか?」
「分かり……ました」
ラストラッシュの答えは既に決まっていたのだ。初めて敗北した相手を自分の師として認める事を。
こうして、ラストラッシュは魔法学校に入学した。過去の経歴を全て捨て、一から自分を鍛え始めたのだ。
◇◇◇◇◇◇
「ハッ!」
目が覚めると、ラストラッシュは盗賊ギルドに戻っていた。右腕には飲みかけのスコッチが握り閉められている。
「兄貴~大丈夫でちか?」
ハリティーとクドラクが心配して起こしたのだ。二人共パジャマ姿で、眠たそうな顔をしている。
「どうやら深酒をしてしまった様で」
そう答えるラストラッシュ。
「風邪引いちゃうって!」
「申し訳ありません」
「なんか、うなされてたよ」
「昔の夢を見ておりました」
そう、決して忘れてはいけない夢をだ。




