048 呆気ない幕引き
「犬が鼻歌?」
にわかに信じがたいと思いつつも、浪太は隙間を覗いた。
「ホンマや」
柴犬が箒を持って器用に掃除していたのだ。
「あれって恢飢かな?」
「多分な」
二人は全く恐怖心を感じない。それどころか、心が癒されていく様な感覚が全身を包み込んだ。
「ねぇ、もっと近づこうよ」
「はあ? あかんて」
「大丈夫だよ。掃除は心が綺麗な証拠だよ」
よく分からない理論を説いた惣太郎は、制止する浪太を振り切って扉を開けた。
「犬ちゃん」
柴犬は二人に気がついた。すると、あんなに御機嫌であった柴犬は「ワンワン」と吠え始めたのだ。
「ほら見ろ!」
柴犬は急激に身体を大きくさせて、筋肉がほど良くついた狼戦士に変身した。
「ガルルルウウウウアアアア!」
箒を勢いつけて投げつけた狼戦士。二人は咄嗟に避けるものの、箒がドアに直撃して吹き飛んだ。
「逃げるぞ」
「ダメだ」
震えた声でそう言った惣太郎。
「なんでやねん」
「足が動かない」
恐怖のあまり身体を動かせない惣太郎であった。
「浪太だけでも逃げて」
「何言ってるんや」
浪太は惣太郎を背負って走り出した。
「ワイら、いつも一緒やったやろ」
そうだったのだ。惣太郎は浪太と違うクラスになって寂しさを感じていた。この一言を聞いただけで、もう満足になった惣太郎。
「ダメだ。逃げ切れないよ」
狼戦士は肉弾戦車の様だ。あの巨体で、とても素早い動きをしている。
(くそ……ここまでか)
諦めようとした時、狼戦士の動きが突如にして止まった。
「なんや」
二人が狼戦士の方を振り反ると、狼戦士も後ろを振り反っていた。奴は何かを一直線上に睨みつけている。
「グルルルルルルル」
喉を振動させて、警戒音を鳴らしている。
「今回は骨の有る奴が相手らしいな」
「そうね。卍堕羅質屋の懸賞金ランキングのトップ10にいたわ」
何と、秘密基地に聖人と神代が居たのだ。何故こんな場所に二人が居るのかは、今の浪太にとってはどうでも良かった。
「何やってるんや! 二人共逃げろ!」
浪太は大声で叫んだ。
「俺達は大丈夫だ。お前達こそ逃げろ」
聖人はそう返した。
「なんでや。お前も早く逃げ……」
そう言いかけた瞬間。
アフロのヅラが狼戦士を襲った。ヅラは狼戦士の顎に当たって、そのままノックダウン。
「へ?」
何が起きたのか理解出来ない浪太は、魂が抜けた様な声を出した。
「呆気ないな」
「言ってもFランクだし。見かけ倒しだったのね」
狼戦士は間もなくしてカードに変わった。
「どういう事や」
「エクソシストだね」
背中に乗っていた惣太郎が声を出した。




