045 心を閉ざす者
ラファエル・ランドクイストは困惑していた。
ラファエルは運動場の並木の下で、木々のざわめきを聞きながら、一人で弁当を食べるのが好きなのだ。
しかし、アッシュというデブ猫の使い魔が当たり前の様に隣で猫缶を食べている。
「聖人達と一緒に食べないのか?」
ラファエルはアッシュに話を振った。
「吾輩は身体が大きいからの。教室にいると、女子達に弁当のオカズを食べさせられて叶わん」
「お前は見た目で、かなり損しているな」
「そうでもないがの。良いこともたくさんある」
アッシュは頬を赤く染めた。思い出すだけで、ニヤニヤが止まらないのだ。
「それだけで、儂と一緒に飯を食べるか?」
「違う。話がしたいのであるよ」
「ほお……話とは何かね?」
タコさんウィンナーを口に頬張るラファエル。
「山の頂上でこれを拾ったのじゃ」
アッシュは生徒会長と書かれたワッペンをラファエルに見せつけた。
「これは……」
弁当を地面に置き、ワッペンに興味を示したラファエルであった。
「何者かに引き裂かれた跡があろう」
「その様だな。鉤爪で引っ掻かれている」
「どうして鉤爪だと?」
「儂の胸に、これと同じ引っ掻き傷がある」
ラファエルの一言でアッシュは気づいた。これは奴の仕業だと。
「ラストラッシュか?」
「左様。霧登風華を拐ったのは奴だ」
「何のためであろう?」
「それは分からない」
「40日ともあろう者が、分からないと」
「ラストラッシュは儂の忠実なる教え子だったが、心の扉は常に閉じていたからな」
そうだったのだ。かのラファエルにも心の内を決して明かさなかった。
「恐らくは……」
アッシュが口を開いた。
「どうしたのだ?」
「奴の目には金しか映らない。よって、身代金でも要求してくるのでは無いか?」
「かもしれないな」
「そうであろう」
アッシュは自慢気に言ったのだ。全てのトリックが解けたかの様に。
「真実がどうであれ、早急に救出せねば為らない」
「霧登風華の救出は吾輩達に任せてもらえないであろうか?」
「無論だ。儂から聖人達に伝えておこう」
「了解したである」
アッシュは、ラファエルの弁当に入っていた鯖の味噌煮をくわえた。
「何をしている!」
「ふふん」
ラファエルはアッシュを捕まえようとしたが、寸前の所で逃げられてしまった。木の上に登ったのだ。
「降りてこい」
アッシュが登っている木は、足若丸高校を象徴する大木であり、ラファエルの背丈でも届かないのだ。
「報酬はこれで良い」
そう言うとアッシュは木を走って降り、目にも止まらぬ速さで何処かに消え去ってしまった。
「まったく……」
ラファエルは座った。弁当を食べ直そうと思ったのだ。




