039 猫のデート
アッシュとエリザベスの出会い。それは、卍堕羅質屋の帰り道まで、さかのぼる。
たまたま散歩していたエリザベスと偶然会い、意気投合した二人はデートの約束をしたのだ。
そんなアッシュは、足早に公園へとやって来た。見ると、エリザベスがブランコの上に座っている。どうやら先に到着した様だ。
「待ったかの?」
アッシュが前足で、エリザベスの身体を撫でた。
「いいえ、私もさっき来た所なのよ」
エリザベスは全身が白い柄で、毛並みが美しい猫である。
雑種でブサ猫のアッシュとは天と地ほどの差があるのだ。
そんな二人の格差デートが今始まる。最初の場所は魚屋であった。
「私一度やりたかったの」
「吾輩が手本をお見せしよう」
魚屋の店員が、お客さんの相手をしている隙を狙って、身構えるアッシュ。
見事、秋刀魚を口にくわえて戻ってきた。
「プレゼントじゃ」
そう言いながら、秋刀魚をエリザベスの前に落とした。
「ありがとう。でも、自分の獲物は自分で取るから、その秋刀魚はアッシュちゃんが食べてよ」
美しい、優しい、気高い。まさに三拍子揃った猫である。アッシュが惚れない訳が無いのだ。
「健闘を期待している」
「ありがとう」
エリザベスは目標を設定した。それは秋刀魚である。
「いくわよ!」
秋刀魚に目掛けて、飛びついたエリザベス。
(取った)
そう思ったのもつかのま、後ろで自転車のベルが鳴り、店員が振り返ったのだ。
「くるあっ!」
店員に見つかり、ダッシュで逃げる二匹。
アッシュはデブな割りに、足が早いのだった。
「ハァハァ……」
取り合えず二匹は、ビルとビルの間に隠れた。
「ごめんなさい、私のせいで」
素直に謝るエリザベス。何を隠そう、自らの失態で獲物を取り逃がしたのだ。
「大丈夫であるよ」
エリザベスの肩に手を回して、慰めるアッシュ。彼は決して怒らない紳士の猫なのだ。
「ありがとう。アッシュちゃん」
「どういたしまして」
アッシュはあくまでも、不細工な顔で笑いかけた。この笑顔が、巷の女子に「ブサ可愛い」と言われて人気なのである。
「次の場所に行こうか」
「はい」
二匹は山を登った。山の上には、碩大区全体を見渡せる絶好のデートスポットがあるのだ。
「すごーい」
丘から見える景色は壮大だった。綺麗なオレンジ色の夕日が、碩大区を照らしている。
「アッシュちゃんも早く早く」
「吾輩ちょっと疲れ……ん?」
アッシュはふと、地面に置かれている布を見つけたので、前足で裏返して見ると、その布には『生徒会長』と書かれていた。
「奴も来たのか」
地面が、えぐれている。ここで何かあった様だと少し心配するアッシュ。




