038 魔法界の歴史
恢飢は至る場所に存在する。二足歩行の動物、四足歩行の昆虫、海底の深海魚ですら、恢飢になりえるのだ。
世界中に潜んでいる恢飢は、数え切れない程の膨大な数だ。祓魔師が世界中を飛び回っているのだが、爆発的に増える恢飢を完全に止める事が出来ない。
その答えは祓魔師の希少価値だ。
ただでさえ死亡率の高い祓魔師なのに、魔法界で起きた戦争により、数多くの有能な戦士達がこの世を去った。
戦争の影響は凄まじかったのだ。本来は専門外であったはずの警察が、恢飢現象の現場に駆り出されている。
そうした中、祓魔師の総本山である『王覇師団』は対策を打った。
魔法界を問わず世界中の少年・少女達に「祓魔師にならないか」とスカウトしているのだ。
玖雅聖人もその対象だ。王覇師団の師団長『玖雅明』は、聖人の父親でもある。
本来、息子をこんな危険な仕事に巻き込みたく無いと思っていた。しかし、人手不足の現状と祓魔師の血筋を見込んだのであった。
玖雅明は、せめてものお詫びとして同年代の神代月波を派遣し、同棲生活を許可させているのだ。
◇◇◇◇◇◇
「あ、そうだった」
神代はそう言って、リュックサックから熊ちゃんのキーホルダーを取り出した。
「なんだこれ?」
疑問を思いながらも、そのキーホルダーを手に取った聖人。
「昨日恢飢を倒したでしょ? あんたがグースカ寝てる間に、キーホルダーと融合しておいたわ」
この可愛らしい熊ちゃんキーホルダーに、昨日倒した恢飢の魂が入ってると思うと、少しゲンナリしてしまう聖人であった。
「ありがたいけどさ。今日はMASATO☆ヅラッカーを使いたい」
「何言ってるの、先生は私なのよ」
軽く、頭を小突かれる聖人。
「そうでした……」
「分かればよろしい。今日はキーホルダーを使って、恢飢を倒してごらんなさい」
「これか」
熊ちゃんのキーホルダーがどういう武器になるのだろうと、不思議に思った聖人。
「またレア武器になったらいいわね」
「ドロップ率とか無いのか?」
「ドロップ率って……相当なゲーム脳ね」
「依存症と言ってもいいぜ」
聖人は、全く自慢にならない事を自慢気に言った。
「正直に言うと、運次第ね」
「運か」
「最強クラスの恢飢と融合させて、最強の武器が出来るとは限らないわ。逆もしかりね」
「最弱でも最強になれるのか」
「そういう事よ。確率は相当低いけど」
すると、アッシュが眠たそうに大欠伸をした。
「ちょっといいかの」
アッシュが神代に話しかけた。
「何よ」
「吾輩、エリザベスちゃんと約束があるのじゃが……」
「エリザベスって誰?」
「公園で知り合ったガールフレンドである」
この場合の公園とは、神代月波とアッシュが最初に戦った場所だ。
「好きにしたら」
素っ気なく答える神代。
「では、そうするかの」
重い身体を動かして、リビングの窓から飛び出したアッシュであった。
「私達も行きましょうか」
「猫の分際で、デートとか羨ましい」
「あら、私達も似たような物じゃない」
「全然違う!」
「冗談だってば。もう……早く行くわよ」
「あ! 待てって」
聖人は嫌々言いながらも、神代について行くのだった。




