033 千年王国
「そういうロドリゲスさんはどうだったのですか?」
ビョルンは、興味津々で訊ねる。
「どうって?」
「とぼけないでくださいよ。滑子さんに告白するって、昨日言ってたじゃないですか」
ヴォルフガングは覚えが無かった。昨日は、ワインボトルを5本空けており、何を喋ったのか記憶にないのだ。
「失敗したよ」
素直に打ち明けた。
「そうですか」
「ああ」
「………………」
しばらく沈黙が続く。ヴォルフガングは、さっきの出来事を思い出すだけで、テンションが底の底へと落ちきってしまうのだ。
「ビョルン」
「はい?」
「訓練に付き合ってくれないか」
「いいですよ」
ビョルンは、二つ返事で引き受けた。
なぜならば、料理長に叱れて、しばらく仕事が無いのだ。
「では行くか」
ヴォルフガングの背中についていくビョルン。実はビョルンも、暇を見つけては訓練所で鍛練しているので、訓練所の事は熟知しているつもりだった。
訓練所にはオペレーター室とシミュレーション室がある。ビョルンはオペレーター室へ、ヴォルフガングはシミュレーション室にそれぞれ入った。
「標的を恢飢に設定しろ」
「はい。それで、レベルはどうします?」
スピーカーからビョルンの声が聞こえる。ビョルンが言っているレベルとは、恢飢の強さの事だ。
「マキシマムレベルだ」
「マ、マキシマムですか?」
「そうだ」
「危険ですって! まだ実験段階と言ってましたよ」
「そんな事、誰が言った?」
「千年王国の役員ですよ!」
「奴の言葉は信じられないな」
ヴォルフガングは千年王国の役員を嫌っている。以前、訓練所の視察に来た役員を招き入れたのだが、図書室に五時間近くこもって、仕事を放棄していたのだ。
「それに……」
言葉を続けた。
「暴れたい気分なんだよ」
ヴォルフガングの目が鋭く光る。「止めてはならない」と、ビョルンは直感した。
「分かりました。いきますよ」
ビョルンはそう言って、マキシマムレベルに設定した。「これで舞台は整った」と思うヴォルフガング。
すると、景色が廃墟に変わった。第三次世界大戦で崩壊した中国のマップである。
「バオウデルだな」
ヴォルフガングの言う通り、千年王国が『バオウデル・忘却の囁き』をモチーフにして造ったのだ。
「おでましか」
大蛇型の恢飢が、ビルを這い回っている。
「お手並み拝見だ」
ハンドガンを構えて、大蛇に照準を合わせた。
壮絶な戦いの開始である。




