030 霧登家の執事
「恢飢の封印カードよ」
「ちょっと待っててね。先客さんがいるの」
「あれ、凄い量だな」
聖人が、テーブル上に置かれた無数のカードを指差した。神代月波も驚きを隠せない様子だ。
「全部あのおじさんが倒したのかしら?」
神代月波はヴォルフガングを見て、そう言った。
彼の事を「おじさん」だと明言したのは、手入れしていないロン毛が、ヴォルフガングを老けてみせたのだろう。
「聞こえているぞ小娘」
ヴォルフガングは、ガンを飛ばした。
「す、すみません」
「この際だ、正直に聞こう」
「はい」
「俺は何歳に見える?」
「45!」
隣の聖人が、空気を読めない回答をした。
「馬鹿者! 俺はまだ28だぞ」
「エーッ」
真っ先に驚きの声を上げたのは、滑子だった。滑子は口をだらしなく開けて、とっさに口を両手で隠した。
「滑子さん?」
ヴォルフガングは目を見開いた。
「ごめんなさい。私より年上だと思ってた」
「年下の男は嫌いなのか?」
「嫌いでは無いけど……私は年上の方が好きだから」
ヴォルフガングの何かが崩れ落ちた。
「嘘だ」
とたんに目眩がして、そのまま卒倒したヴォルフガング。
「おい、おっさん!」
「大丈夫?」
聖人と神代は心配そうに、頬を叩くものの、ヴォルフガングは一向に目を覚まさない。完全に気を失っている様だ。
「騒々しい、何事であるか」
店の前で待っていたアッシュが、脂肪を揺らしながら、店内に入ってきたのだ。
「店の前で待ってろって言っただろ」
「私はいいのよ。猫ちゃん大好き」
滑子はアッシュの頭を撫でた。アッシュは鼻を膨らませて、満足そうな顔をした。
「それよりこの人どうするのよ」
神代は、ヴォルフガングの額をデコピンしたり、鼻をつまんだりしていた。相手が気を失っているからといって、やっていい事では無い。
「そうね……家に送りましょう」
「滑子さん、この人のお家ご存知なのですか?」
「ええ、知ってる。ヴォルフガングさんは霧登家に住んでるわ」
「霧登って、霧登風華の?」
聖人が身を乗り出して質問した。
「そうよ。この人こう見えて、執事やってるの。想像つかないでしょ」
全くその通りであると、店内にいる全員が思った。執事をやっている割には、身形が汚すぎるのだ。
「とりあえず、運びましょうか」
「でも、どうやって運ぶんすか?」
「魔法があるじゃない」
神代はウインクした。「つくづく魔法ってのは、便利な物だ」と、聖人は思った。




