029 卍堕羅質屋
質屋は稼げないという考え方は、創造神が降臨して以来、大きく変わった。特に、恢飢物取扱免許を取得している質屋は、王覇師団と繋がりを持ち、国家専属のエクソシストと、ほぼ同格の立場にあるのだ。
ここ碩大区には、第一級免許を持ちながら、エクソシストの仕事も兼任している質屋が一つだけある。
卍堕羅質屋。足若丸高校から500m地点に構えているお店だ。
その店の近くで、ブツブツと一人言を呟いている青年がいた。彼は一時間近くもの間、店に入らずに、考え事をしている。
「俺と付き合ってくれ!」
誰も居ない場所で、愛の告白をしたヴォルフガング。
「何か違うな」
ヴォルフガングは、違和感を覚えた。
「二人で卍堕羅軍団を作ろう」
これも違う。
「合体しよう」
これは願望だ。
「大艦巨砲主義」
もはや訳が解らない。ヴォルフガングは頭の中が混乱している様子だ。
「ええい、なるようにならあ!」
ヴォルフガングは意を決して、卍堕羅質屋の扉を開いた。
「うわっ」
丁度、卍堕羅質屋のオーナーも扉を開けようとしていたのだ。好きな人が目の前に居て、思わず心臓が高まるヴォルフガング。
「いらっしゃい」
優しい口調と笑顔で出迎えてくれた彼女。
卍堕羅滑子というのが、彼女の名前だ。
艶かしい唇に、化粧いらずの綺麗な肌が特徴。
男ならば彼女を見て、こう言わずにいれない。
「美しい」と。
そして、滑子は未亡人である。夫に先立たれて、女手一つでこの質屋を守り続けてきたのだ。
「滑子さん……」
「今日はどうしたの?」
まるで海の様に、全てを包み込む笑顔。ヴォルフガングは、この笑顔を一目見た時から、滑子の事を好きでいるのだ。
「あの」
そこから先は、言葉が詰まって言えなかった。フラれたらどうしよう。彼氏がいると言われたらどうしよう。興味が無いと言われたらどうしよう。
そういうネガティブな発想が、ヴォルフガングの動きを止めてしまった。
「ん?」
可愛らしく首を傾げる滑子。自然と男が惚れる仕草を挟むのが、滑子の武器であった。
「たまたま、山の中で恢飢を倒したんだ。で、金に変えてもらおうと思ってだな」
風呂敷いっぱいに入ったカードをカウンターの上に置いたヴォルフガング。ざっと四、五十枚はあるだろう。
「まぁ、凄い!」
「これぐらいは朝飯前さ」
褒められて、鼻がむず痒くなったヴォルフガング。
「さっそく勘定しましょう」
「おう。ちょっと多めに頼むぞ」
「ダメですよー」
「ハハッ、そうだよな」
こんな事を言いながら、「お金なんぞどうでもいいと」と内心思っているヴォルフガング。
彼はとにかく、滑子と喋る口実が欲しいだけであった。
「お邪魔しまーす」
「あら、いらっしゃい」
すると、足若丸高校の制服を着た男女が店に入ってきた。




